コロナ感染拡大の影響による損失を計上している企業が増えています。
一時的に落ち着いたと思われたコロナ感染状況も、オミクロン株の感染が拡大するなど未だ収まる状況になく、営業時間短縮などを余儀なくされている企業もあります。
感染状況次第では、政府や自治体より店舗・工場などの休業要請やイベント開催中止の要請が行われる可能性もあります。
このように営業時間短縮、店舗・工場の休業要請やイベント開催中止要請が行われた場合、営業ができずに収入が減少し、人件費や家賃といった固定費だけが発生してしまい、結果としてコロナ禍の影響による多額の損失が計上されることになります。
そこで今回は、コロナ禍の影響により営業時間の短縮、店舗・工場などの休業要請やイベント開催中止要請が行われた場合に発生する損失の経理処理方法について解説します。
営業時間短縮、休業要請やイベント開催中止要請による損失とは?
今回のコロナ禍により、営業時間が短縮され、政府や自治体の休業要請があり、やむを得ず休業をせざるを得なかった企業があります。
また音楽などのイベント開催ができず、収入が減少してしまった企業もあります。
例えば、百貨店や外食などの飲食業は、休業や時間短縮の営業などによる損失が多かったと思われます。
休業や営業時間の短縮、イベント中止といった結果、
・営業ができなかったにも関わらず固定費(人件費や家賃)が発生
・営業ができなかったことに伴い、店舗や設備などの減損損失を計上
・営業ができなかったために、店舗閉鎖による損失が発生
・営業ができないために人員削減し、特別退職金を支給
このような理由によって、損失が発生しています。
ここからはこうした理由によって発生した損失について、どのように経理処理をすればよいか、具体的に確認していきます。
営業ができなかったことによる収入減の扱い
営業ができなかったことによる収入が減少した場合、その収入減の金額は、
・前期や予算と比較して当期に減少した収入金額が減少
・コロナ禍によって営業できなかったことによる収入金額減=損失
といった影響を受けます。
言い換えれば、仮に営業できたらこれだけ収入を得ることができた、というものであり、営業できなかった結果の収入減は、「機会損失」ということになります。
この機会損失は、経理処理上、損失として損益計算書で反映させることはできません。
結果、休業要請による損失として特別損失などに計上することはできないということになります。
営業ができなかったにも関わらず発生した固定費(人件費や家賃など)の経理処理
営業ができなかったにも関わらず発生した固定費ですが、例えば店舗で働く方の人件費やその家賃などが該当します。
また、工場の稼働が停止した場合、その工場で働く人の人件費などもこれに該当します。
この固定費については、日本公認会計士協会が公表した、
「新型コロナウイルス感染症に関連する監査上の留意事項(その4)」
に考え方について記載がありますので、この内容を参考に確認していきます。
この留意事項(その4)では、以下の費用は、特別損失の要件として満たしていると記載があります。
こうした状況となった場合は、その固定費は全額特別損失として計上が認められることになります。
また、イベント中止等により追加で直接費用が発生した場合も、その金額は特別損失計上にできます。
工場の稼働で問題となる原価への影響については、完全に工場の操業を停止して、原価の固定費だけが毎月計上されるならば、その金額は全額特別損失として計上できます。
しかし、工場が一部稼働しているような場合には、
・コロナ禍によって原価悪化要因となった固定費
・通常発生しうる固定費
に区分したうえで、特別損失と原価の計上が必要になることに注意が必要です。
また、「新型コロナウイルス感染症に関連する監査上の留意事項(その4)」には、
経常的な経営活動に伴う業績不振等による損失が特別損失に計上されることがないよう,監査上,留意が必要である。
といった記載もあります。
コロナ禍を理由に、発生する費用をすべて特別損失に計上することはできず、
・コロナ禍によって原価悪化要因となった固定費
・通常発生しうる固定費
これらを区分して、監査人へも明確に説明できるようにしなければなりません。
減損損失、店舗閉鎖による損失、特別退職金の支給
コロナ禍が原因で発生した、「固定資産の減損損失」、「店舗閉鎖による損失」「特別退職金の支給」といった損失は、通常発生する損失ではないため、特別損失にて計上することになります。
今回はコロナ禍による政府・自治体の休業要請という、通常起こりえない理由によって発生した損失となりますが、これらの損失はコロナ禍に限らず臨時的に発生する損失であるため、特別損失計上することについては、特に問題はないということになります。
損益計算書への影響
コロナ禍の影響により損失が発生した場合、各社の損益計算書は昨年度とは異なります。
コロナ禍という要因が含まれており、前年度との比較、業績評価・分析、今後の経理処理方法が非常に難しくなるということを理解しなければなりません。
特に、特別損失に計上されたコロナ禍の影響による損失ですが、本当に一時的・臨時的なものとなるのか不確実です。
感染拡大の状況が続いたり、アフターコロナにおいてビジネス環境が大きく変化したことで、そもそも損失が一時的・臨時的ではなく経常的な損失になってくる可能性も否定できません。
そうなると、損益の分析、業績評価軸も変わってきますし、コロナ禍による影響で計上していた特別損失の扱いも変わる可能性もあるといったことも考慮しておいた方がよいと思われます。
現在も、刻々と変化しているコロナ禍の状況を加味しながら、損益計算書への影響も適時チェックしていく必要がありそうです。
まとめ
今回は、コロナ禍の影響で発生した損失の中で、営業ができなかった場合の損失経理処理方法を解説してきました。
この損失は、基本的には日本公認会計士協会が公表している「新型コロナウイルス感染症に関連する監査上の留意事項(その4)」に従って処理することで問題ありません。
注意すべき点としては、
「営業ができなかったことによる収入減」は機会損失であり、そもそも損失計上は認められていません。
「営業ができなかったにも関わらず発生した固定費(人件費や家賃など)」の損失については、基本、全額特別損失として計上することになります。
ただし、経常的な経営活動に伴う業績不振等による損失が特別損失に計上されることがないよう経理処理に注意が必要です。
一時期、おさまりが見えたコロナ感染拡大も、再度オミクロン株が発生するなど余談が許されない状況が続いています。
それに合わせて、企業側で発生するコロナ禍を理由とした損失も増加する傾向にありますので、今回のコロナ禍による損失の経理処理方法も参考にしてもらえればと思います。
執筆者情報/経理部IS
数十年間、上場企業とその子会社で経理業務に従事している現役経理マン
転職6回・複数の上場企業での中途採用経験も活かし、経理の転職エージェントを紹介するサイトを運営中
ブログ名:経理の転職エージェント比較専門サイト:https://www.keiri-jobchange-agent.com/