固定資産税は、毎年1月1日現在において土地・家屋・償却資産を所有している者に課税される税金です。
そして、毎年4~5月頃に、各市町村から固定資産税の納税通知書が送付され、通常は6月、9月、12月、2月の年4回に分けて納税することになります。(6月に一括納付も可能です)
また固定資産税は、税務処理上、納税通知書が交付された日の事業年度において、その全額を損金算入することができます。
しかし、普段とは異なる事例が発生した場合、固定資産税を損金算入できないことがありますので、注意が必要です。
そこで今回は、普段とは異なる事例の中でも重要な3つをピックアップし、そのときの固定資産税の損金処理はどうなるかを取り上げ、詳しく解説していきます。
経理担当者も意外と知らない、間違いやすい固定資産税の損金処理事例について、ぜひチェックしてみてください。
固定資産税の損金計上【間違いやすい3つの事例】
固定資産税の損金計上ですが、普段とは異なる事例が発生したとき、固定資産税の損金計上ができない場合があります。
★普段とは異なる3つの事例
2.組織再編(分割、事業譲渡)
3.中古資産の取得
このような事例が発生したとき、固定資産税の損金計上の処理方法が通常とは異なります。
この処理の方法を間違えると、税務処理上損金として認められず、税務調査で指摘されてしまう場合がありますので注意が必要です。
固定資産税を損金算入できる場合とは?
そもそも、固定資産税の損金算入ができる場合とはどういったことなのでしょうか?
固定資産税の損金算入ができる場合は、
「賦課決定があった日(賦課課税方式)の属する事業年度」
と法人税法で決められています。
具体的には、次のようなタイミングで固定資産税の損金算入が認められます。
・納期開始の日の属する事業年度において損金経理
・実際に納付した日の属する事業年度において損金経理
いずれかに該当した場合、税務処理上、損金計上が認められます。
そしてこの固定資産税の経理処理ですが、例えば3月決算の会社では、
・6月納付
・4~3月の概算累計額と6月納付額の差額は、決算処理で調整
このように処理されている場合が多いと思われます。
納付時に一括で費用計上する場合もありますが、年間の固定資産税概算額を毎月の費用として、分割計上する方法も多く行われています。
この例では毎月概算額を分割計上していますが、結果的に納付額をその事業年度で費用計上することになるため、特に損金算入に関する問題は起きません。
(固定資産税を納付した事業年度に、損金処理されることになるので、結果として税務処理上も問題にならないということです)
しかし、普段とは異なる事案が発生した場合は、この固定資産税の損金算入ができないことがあります。
ここからは、固定資産税の損金算入ができない場合の事例を3つ解説していきます。
決算期変更による固定資産税の扱い
決算期の変更があった場合、固定資産税の損金処理について問題になることがあります。
・決算期の変更後の事業年度において、納付書が届いていないのに、固定資産税を概算で未払計上
このような場合、概算で毎月未払計上した固定資産税は、損金として認められません。
分かりにくいと思われますので、具体的な事例を用いて解説してみましょう。
★12月決算を3月決算に変更した事例
このような決算期変更の場合、12月に決算確定したのち、1~3月に3か月分の決算を実施して決算期変更を行います。
この決算期変更時の固定資産税について問題となるのが、以下のように経理処理をした場合です。
②X1年12月決算
③6月に納付した固定資産税は12月決算で損金処理
④3月決算へ変更
⑤X2年1月~3月の3か月分で決算
⑥固定資産税は1~3月で月額を概算で分割計上
3月決算に変更した際、1~3月で3か月分決算を実施します。
この3か月分の決算で、固定資産税を毎月概算で分割計上した場合、この概算計上分が損金として認められません。
1~3月決算の3か月の間には、固定資産税を納付しておらず納税通知書も届いていないため、概算計上した分は損金計上の要件を満たさないことになります。
結果として、決算期変更後の事業年度において固定資産税を概算計上している場合、
1~3月で概算計上した固定資産税は、損金として認められず、申告調整が必要となってしまうのです。
経理処理上、固定資産税は毎月分割で計上することが多いのですが、決算期変更後の最初の事業年度で、
・固定資産税を納付していない
・納税通知書も届いていない
このような場合、毎月分割で計上した固定資産税は、損金として認められません。
そして、損金として認められない固定資産税は、申告調整により損金不算入の処理しなければなりません。
組織再編(分割、事業譲渡)による固定資産税の扱い
組織再編の中でも、特にグループ内で以下のような事例が発生する場合があります。
②A社に、B社へ移管した資産に係る固定資産税の納税通知書が届き、それを納付
③A社は、B社へ移管した資産に係る固定資産税を、B社に請求
④A社は、B社より受け取った固定資産税を雑収入計上
⑤B社は、A社へ支払った固定資産税を租税公課計上
このような場合のA社、B社の扱いは次のようになります。
⇒ B社が支払った固定資産税は、寄付金となります。
固定資産税の納税義務者は、1月1日時点の固定資産の登記簿上の所有とされています。
したがって、年の途中に固定資産の所有権移転が行われたとしても、固定資産の納税義務者は、移転前の所有者となります。
このような規定があるため、事業を分割(又は事業譲渡)したA社に、固定資産税を支払う義務があるのです。
中古資産取得時における固定資産税相当額の扱い
年の途中で取得した、中古建物などの固定資産にかかる固定資産税相当額の支払には注意が必要です。
実務上、不動産の売買時に、所有権移転前後で固定資産税を日数按分して、未経過部分を精算することが一般的に行われています。
そして、中古建物などの固定資産を取得した側は、日数按分した未経過部分の固定資産税を「租税公課」として処理してしまうようなミスが見受けられます。
固定資産税の未経過部分の正しい処理は、
・そして、消費税の課税対象とします。
中古建物などを購入し、引き渡し以降の固定資産税相当分を日数按分して固定資産税の精算金として支払った際、この精算金は中古建物の購入の際に必要な費用であるとみなされるため、固定資産の付随費用になります。
そして、固定資産の購入費用は消費税の課税対象となります。
こうした固定資産の取得に伴う固定資産税の精算処理は、それほど税務に詳しくない固定資産担当者が処理をして、その結果処理を間違ってしまう場合も多く見受けられますので注意が必要です。
中古資産を取得する際は、固定資産税の扱いにも細心の注意を払って経理処理をしてください。
まとめ
今回は、固定資産税の損金計上の問題について解説しました。
特に普段と異なるような事例が発生していなければ、固定資産税の損金計上についてあまり気にする必要はありません。
しかし、以下のような事案が発生した場合、注意が必要です。
2.組織再編(分割、事業譲渡)
3.中古資産の取得
このような事案が発生した場合、固定資産税の損金処理に注意する必要があることを認識してください。
執筆者情報/経理部IS
数十年間、上場企業とその子会社で経理業務に従事している現役経理マン
転職6回・複数の上場企業での中途採用経験も活かし、経理の転職エージェントを紹介するサイトを運営中
ブログ名:経理の転職エージェント比較専門サイト:https://www.keiri-jobchange-agent.com/