法人税の計算に必要な「繰越欠損金」とは?メリットと申告調整方法を解説

法人税の計算をするとき、繰越欠損金の理解が欠かせません。

繰越欠損金の利用によって、納付する法人税額を減少させる効果があり、資金繰りなどの会社の財務状況にも影響を及ぼす場合があります。

そのため、税金計算を担当する経理担当者のみならず、経営に携わる人も繰越欠損金の意味を理解しておく必要があります。

そこで今回は、法人税の計算にも必要な繰越欠損金について詳しく解説します。

繰越欠損金について理解を深めたい方は、ぜひ今回の記事をチェックしてください。

繰越欠損金とは?

繰越欠損金とは、

「法人税法上の利益のマイナス(赤字)を、翌年度以降に繰り越した金額の累計」

のことをいいます。

欠損金は、法人税法で定められたルールに従い計算した利益が、マイナス(赤字)になった状態のことをいいます。

そしてこの欠損金は、翌年度以降に繰り越して、過去に発生した利益のマイナス(赤字)を累計していきます。

これが繰越欠損金となります。

繰越欠損金を利用する税務上のメリット

繰越欠損金は、翌年度以降に利益(黒字)が発生した場合、繰り越された欠損金と相殺することができ、納付する税金を減額させることができます。

これが、繰越欠損金のメリットになります。

ここでは、具体的な数値を用いて、欠損金の税務上のメリットを解説していきます。

1.過去欠損金が発生している場合

・2020年度 税務上の利益 ▲800(赤字が発生)

・2020年度 ▲800の赤字は、欠損金として翌年度に繰り越す(▲800が繰越欠損金となる)

・2021年度 税務上の利益 +1,000(黒字が発生)

・税率は30%とする

・税金は、税務上の利益に税率乗じて計算する

※税務上の利益とは、法人税法で定められたルールに従い計算された利益(税務上は「課税所得」といいます)のことを示します。

繰越欠損金が発生している場合、2021年度の税金は以下のとおりとなります。

1,000(税務上の利益)- 800(繰越欠損金)= 200 × 30%(税率)= 60

繰越欠損金が発生している場合、税金は60となります。

このように、過去に税務上の利益がマイナスとなっており、それを繰越欠損金とした場合、翌年度以降発生した税務上の利益と繰越欠損金を相殺できます。

2.過去欠損金が発生していない場合

・2020年度 繰越欠損金の発生なし

・2021年度 税務上の利益 +1,000(黒字が発生)

・税率は30%とする

・税金は、税務上の利益に税率乗じて計算する

このような繰越欠損金が発生している場合、2021年度の税金は以下のとおりとなります。

1,000(税務上の利益) × 30%(税率)= 300

繰越欠損金が発生していない場合、税金は300となります。

繰越欠損金が発生している場合の税金は、60でした。

一方、繰越欠損金が発生していない場合の税金は、300でした。

繰越欠損金が発生している方が、明らかに納める税金の額が少なくなります。

これは、税務上の利益と繰越欠損金を相殺することで、税金計算対象となる利益が減額され、合わせて納める税金の額も減額されるからです。

繰越欠損金があると、納める税金が減額されます。これが正に繰越欠損金のメリットということになります。

繰越欠損金の利用条件

納める税金を減額させることができるというメリットがある繰越欠損金ですが、一定の条件を満たさない場合、繰越欠損金を利用することができません。

ここでは、繰越欠損金を利用するための条件を確認していきます。

1.青色申告書提出の条件

繰越欠損金を利用する場合、青色申告書の提出が必要です。

発生した欠損金を繰越して、翌年度以降の利益から繰越欠損金を控除しようとする法人は、欠損金が発生した事業年度において、青色申告書を提出している必要があります。

また、欠損金が発生した年度以降も、連続して確定申告書を提出する必要があります。

2.欠損金の繰越期間の条件

繰越欠損金は、繰越ができる期間が決まっています。

平成30年(2018年)4月1日以後に開始される事業年度からは繰越期間が10年となっています。

(それ以前に発生した繰越欠損金の繰越期間は9年)

3.繰越欠損金の控除限度額の条件

繰越欠損金は、会社規模によって控除できる限度額に制限があります。

・中小法人等

⇒控除限度額に制限がありません(全額控除可)

※中小法人等=資本金の額もしくは出資金の額が1億円以下の会社が該当

ただし、1億円以下の会社であっても、資本金の額若しくは出資金の額が5億円以上の法人による完全支配関係(100%出資子会社など)がある会社は対象外。

・中小法人等以外の会社

⇒中小法人等に該当しない会社は、繰越欠損金の控除について制限があります。

(欠損金が発生した事業年度ごとに、控除の制限が課されている)

中小法人等以外の会社の繰越欠損金の控除についての制限は、以下の通りとなります。

繰越欠損金の控除制限(控除する事業年度ごと)

繰越欠損金を控除できる額は、発生した課税所得(税務上の利益)に対し、次の率を乗じて求めます。

① 平成24年(2012年)4月1日~平成27年(2015年)3月31日開始事業年度

 ⇒ 100分の80

② 平成27年(2015年)4月1日~平成28年(2015年)3月31日開始事業年度

 ⇒ 100分の65

③ 平成28年(2016年)4月1日~平成29年(2017年)3月31日開始事業年度

 ⇒ 100分の60

④ 平成29年(2017年)4月1日~平成30年(2018年)3月31日開始事業年度

 ⇒ 100分の55

⑤ 平成30年(2018年)4月1日~開始事業年度

 ⇒ 100分の50

中小法人等以外の会社では、繰越欠損金の控除限度額が年々減少しています。

そして現在では、発生した課税所得(税務上の利益)に対し、100分の50までしか繰越欠損金を控除することができません。

控除限度額というのは、税務上の利益が発生し、繰越欠損金を利用しようとしても、利用制限がかかってしまうということです。

例えば、

・繰越欠損金 700

・当期の税務上利益 500

の発生があったとします。

この場合、中小法人等であれば、当期の税務上利益500に対し、全額繰越欠損金の控除ができます。
(税金計算の対象である利益は「500-500=0」となります)

一方、中小法人等以外の会社は、当期の税務上利益500に対し、利益の50%までしか繰越欠損金を控除できません。
(この場合、税金計算の対象である利益は「500-(500 ✕ 50%)=250」となります)

このように、中小法人等は全額繰越欠損金を利用することができるため、中小法人等以外と比べると、優遇されている状況にあります。

繰越欠損金の申告調整方法

繰越欠損金を利用する場合は、申告書にて調整が必要となります。

この申告書の調整は、3つの別表に繰越欠損金の利用金額を記載して調整を行います。

別表一での繰越欠損金の入力

法人税申告書の別表一では、納付する法人税額を計算する申告書となります。

ここでは、税法上の利益から欠損金を控除する額と、翌年度以降に繰り越す欠損金の額を記載します。

※別表一にある、「31」「32」の項目で調整の記載が必要となります。

別表四での繰越欠損金の入力

法人税申告書の別表四では、所得金額(税務上の利益)を計算する申告書となります。

この別表四では、所得金額(税務上の利益)を計算するときに、控除する繰越欠損金の額を記載します。

ここで控除する繰越欠損金の額を記載しないと、正しい所得金額(税務上の利益)と税額が計算されませんので、注意が必要です。

※別表四にある、「40」の項目で調整の記載が必要となります。

別表七(一)での繰越欠損金の入力

法人税申告書の別表七(一)は、繰越欠損金を管理する申告書となります。

別表七(一)では、欠損金の発生状況および利用状況を記載し、繰越欠損金の状況を管理しなければなりません。

また申告時に、この別表七(一)を提出しないと、繰越欠損金の利用ができませんので、必ず申告時に提出する必要があります。

現在、申告書はシステムや市販ソフトで作成されることが一般的です。

システムや市販ソフトでは、別表別表七(一)に正しいデータを入力すると、自動で別表一や別表四へ繰越欠損金のデータが連携するようになっています。

繰越欠損金が発生する場合、申告書の3つの別表で、欠損金の発生や利用状況を記載しなければならないことを理解してください。

まとめ

今回は、法人税の計算にも必要な繰越欠損金について解説してきました。

繰越欠損金は、翌年度以降の税務上の利益と相殺し、納める税額を減額させる効果があります。

この繰越欠損金を利用することで、資金繰りなどの会社の財務状況にも大きな影響を及ぼす場合がありますので、経理担当者のみならず、経営に携わる人も繰越欠損金が重要であることを理解しましょう。

執筆者情報/経理部IS
数十年間、上場企業とその子会社で経理業務に従事。
転職6回・複数の上場企業での経験を活かし、経理の転職エージェントを紹介するサイトを運営中

ブログ名:経理の転職エージェント比較専門サイト:https://www.keiri-jobchange-agent.com/

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