減損会計を適切に処理するための5つの具体的なステップ

減損会計は、企業の経営状況や将来の業績見通しなどを明らかにし、社内での適正な手続きを踏んだうえで会計処理を行わなければならないなど、非常に難しく、多くの論点があります。

また、減損会計の適用により、多額の損失が発生する場合もあり、慎重な判断が求められるため、処理方法をしっかり理解する必要があります。

今回は、会計処理の中でも、非常に難しい減損会計について、具体的な処理方法を解説していきます。

会計処理の中で発生する仕訳例を用いて、できるだけ具体的に解説しますので、減損会計について理解を深めたい方はぜひチェックしてみてください。

減損会計とは?

減損会計とは、

・企業が保有する固定資産の収益性が低下し、
・固定資産に対する投資額の回収が見込めない場合、
・固定資産の価値の下落分を減額して、
・損失を計上する

会計処理のことをいいます。

企業は固定資産に投資をして、事業を行い、収益を得ることを目的として活動をしています。

こうした事業活動において、一定の収益を得ることが難しくなった場合、当初投資をした固定資産は、収益力(収益を得る能力)が低下したとして、実際の収益力を固定資産に反映させる必要があります。

たとえば、

固定資産を使用して事業を継続すると、将来5年間で100の収益を計上できるとしましょう。

しかし、その固定資産の価額が500であったとした場合、500の固定資産で100しか収益を得ることができません。

このような収益を100しか生まない固定資産の実質の価値は500ではなく、100ということができます。

そこで減損会計では、固定資産500を実質の価値である100まで減額します。これを「固定資産の減損処理」といいます。

※減損会計について、さらに簡単に理解したい方はこちらの記事も参考にしてください。

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経済ニュースで、 「〇〇会社が店舗の減損を実施したことにより、大幅な赤字計上となる見込み」 「◇◇会社が競争環境の激化などによる収益性の低下を受け、多額の減損損失を計上」 などといった、記事を見かけることがあります[…]

減損会計では、固定資産の収益力を見込んだうえで、減損損失を計上する必要があることから、慎重な会計処理が求められます。

ここでは、具体的にどのように減損会計の処理が行われるのか、具体的に解説していきます。

減損会計の対象となる資産について

減損会計の処理を行うにあたって、まずは何が減損会計の対象となる資産であるかを理解しなければなりません。

減損会計の対象となる資産は次の通りです。

・有形固定資産

建物や土地、工場に設置される機械装置、運送に使うトラックといった車両などが該当します。

・無形固定資産

無形固定資産は、実態が見えない(形がない)固定資産のことを言います。
具体的には、法律上の権利である特許権や商標権、電話加入権、システムを動かすソフトウェアなどが無形固定資産に該当します。

企業会計において固定資産は、「有形固定資産」、「無形固定資産」、「投資その他の資産」の3つに分類されますが、今回の減損会計の対象となる固定資産は、「有形固定資産」、「無形固定資産」となります。

なお、「投資その他の資産」については、「金融商品に係る会計基準」など、別の会計基準で減損の処理方法などが定められています。

減損会計の具体的な処理方法

減損会計は5つのステップを経て、処理が行われます。

減損会計5つのステップ

ステップ1.固定資産をグルーピングする

ステップ2.減損損失の兆候を把握する

ステップ3.減損損失を計上する必要があるか認識する

ステップ4.減損損失の額を測定する

ステップ5.減損損失の仕訳を起票する

固定資産の減損処理が必要となった場合、この5つのステップを経て、「減損損失」が計上されます。

ここからは、この5つのステップの内容について詳しく説明していきます。

ステップ1.固定資産をグルーピングする

まず最初のステップは、固定資産をグルーピングすることです。

そもそもグルーピングをするとはなんでしょうか?

このグルーピングをすることについては、固定資産の減損に係る会計基準において次のように定められています。

「資産のグルーピングは、他の資産又は資産グループのキャッシュ・フローから概ね独立したキャッシュ・フローを生み出す最小の単位で行う」

グルーピングについては、少々分かりづらいため、具体的な事例を用いて説明しましょう。

例えば、全国展開している飲食店の場合、各地域に店舗を構えて営業をしています。

その各地域の店舗は、それぞれ独立して収支を管理し、利益(キャッシュ)を稼いでいます。

この場合、各地域それぞれの店舗を1つの単位としてグルーピングをします。

別の事例も考えてみましょう。

食品会社が、地方にそれぞれ工場を保有しています。

例えば、東北の工場は冷凍食品の工場があり、同一の敷地に冷凍食品を販売する営業所がありました。
この冷凍食品で製造した製品を営業所が販売して、利益(キャッシュ)を稼いでいます。

この場合、冷凍食品の工場と営業所は、部門は異なるものの、一体となって利益を稼いでいますので、それぞれをまとめて1つの単位としてグルーピングをします。

このように、自社の事業に合わせて、独立したキャッシュフローを生み出す最小の単位をグループ分けしていきます。

これが、グルーピングをするという意味になります。

そして、グルーピングされた単位で使用する固定資産は、まとめて1つの資産グループとなります。

ステップ2.減損損失の兆候を把握する

続いて減損の兆候を把握します。

グルーピングによってまとめられた1つの資産グループに、減損の兆候があるかどうかを把握することになります。

まず、減損の兆候とはどのようなことをいうのでしょうか?

減損の兆候は、4つあります。

①資産グループの事業の損益が、継続してマイナスである場合

②使用範囲又は方法について、事業の損益を著しく低下させる変化がある場合

③資産グループの事業の経営環境が著しく悪化した場合

④資産グループの固定資産の市場価格が著しく下落した場合

この4つのうち、1つでも該当があれば、減損の兆候あるということになります。

①の資産グループの事業の損益が、継続してマイナスである場合とは、実務上は過去2期営業利益がマイナスであるような場合をいいます。
②使用範囲又は方法について、事業の損益を著しく低下させる変化がある場合とは、資産グループの事業再編をすること、資産グループの固定資産の除売却を予定することや今までとは異なる用途に転用することをいいます。
③資産グループの事業の経営環境が著しく悪化した場合とは、原材料の価格が高騰したり、技術革新によって現在保有している固定資産が陳腐化したり、法改正の影響により、資産グループの事業の経営環境が悪化した状態をいいます。
④資産グループの固定資産の市場価格が著しく下落した場合とは、例えば資産グループに含まれる土地といった固定資産の取引価格が、帳簿価額から50%程度以上下落した場合のことをいいます。

特に土地は、固定資産税評価額などからおおよその市場価格が把握できるため、減損の兆候の判定では必ずチェックすることになります。

実務上は、決算において、資産グループに4つの減損の兆候のうち、該当するものがあるかどうかを確認します。

減損の兆候について、該当するものがない場合は、固定資産の減損処理は不要です。

一方、1つでも減損の兆候に該当する場合は、「ステップ3.減損損失を計上する必要があるか認識する」の処理を行うことになります。

ステップ3.減損損失を計上する必要があるか認識する

ステップ2で減損の兆候に該当する資産グループがあった場合、この資産グループの固定資産を減損するかどうか、認識判定を行います。

認識判定にあたって、最初に行わなければならいないことは、減損の兆候に該当した資産グループが、今後事業を継続することで、どの程度将来キャッシュ・フロー※を稼ぎ出すかを見積もることです。

キャッシュ・フローとは

キャッシュ・フローとは利益ではなく、将来に渡って実際に稼ぐ資金(お金)と、資産グループの固定資産を売却した場合の収入(お金)を合わせた金額をいいます。

また減損の認識を行う場合のキャッシュ・フローは、「割引前キャッシュ・フロー」といい、将来の金利等の影響を加味しないものです。

ここでも、具体的な事例を用いて減損の認識を説明していきます。

飲食店の店舗では、厨房設備や店舗の建屋といった固定資産を使用して、毎年10,000,000円を5年間キャッシュ・フローを稼ぎ出すとします。

この場合、将来キャッシュ・フローの総額は50,000,000円となります。

ここで、飲食店の店舗固定資産の簿価合計が70,000,000円だったとしましょう。

70,000,000円の固定資産を使って、将来稼げるキャッシュ・フローは50,000,000円しかありません。

50,000,000円しか稼げない固定資産には、70,000,000円の価値はないと言えます。

このように、将来キャッシュ・フローが資産グループの固定資産簿価を下回る場合は、減損損失を計上する必要があると認識します。

減損の認識判定

将来キャッシュ・フロー > 資産グループの固定資産簿価 ⇒ 減損不要将来キャッシュ・フロー < 資産グループの固定資産簿価 ⇒ 減損必要

ここで、減損が必要と判定された場合は、「ステップ4.減損損失の額を測定する」へ進むことになります。

ステップ4.減損損失の額を測定する

ステップ3で減損が必要と判定された資産グループについては、実際にどれだけの金額を減損する必要があるか計算をしなければなりません。

減損損失額の計算は、次の計算式で求められます。

減損損失額 = 固定資産の帳簿価額 - 回収可能価額※1

※1:回収可能価額とは

資産グループの正味売却価額と使用価値のいずれか高い方の金額を回収可能価額といいます。

①正味売却価額 = 現時点における資産の時価から売却に係る費用を差し引いた額

②使用価値 = 資産グループを継続的に使用した場合に得られる割引後キャッシュ・フロー※2の総額

※2:割引後キャッシュ・フローとは

例えば固定資産を使用して、毎年キャッシュ・フロー1千万円を5年に渡りを稼ぎ出すとします。
それに割引率(会計基準で決められている収益率など)を加味して、割引後のキャッシュ・フロー現在価値を算定します。

例えば、割引率5%とした場合、

1年後は、10,000,000÷1.05
2年後は、10,000,000÷(1.05の2乗)
3年後は、10,000,000÷(1.05の3乗)
4年後は、10,000,000÷(1.05の4乗)
5年後は、10,000,000÷(1.05の5乗)

といったように計算し、割引後のキャッシュ・フロー現在価値を求めます。
(この場合の現在価値は、43,294,767円となります)

この減損損失の測定の中でも、回収可能価額の算定は専門的で非常に難しいため、会計士と相談しながら計算を行うことをおすすめします。

このステップ4で計算された減損損失の額は、次のステップ5で仕訳として起票する必要があります。

ステップ5.減損会計の仕訳例

減損損失を計上する場合は、「固定資産の減損に係る会計基準の適用指針57」に従って、仕訳を起票する必要があります。

仕訳は、「直接控除方式(原則法)」、「独立間接控除形式(容認)」いずれかを選択して、起票します。

ここでは、具体例を用いて、減損会計の仕訳例を確認していきましょう。

前提条件:

・建物取得価額 10,000,000円
・当期末までの減価償却費 3,000,000円
・当期末の減損損失 4,000,000円

直接控除方式(原則法)

減損損失 4,000,000 / 建物 4,000,000

独立間接控除形式(容認)

減損損失 4,000,000 / 減損損失累計額 4,000,000

直接控除方式では、建物の取得価額から減損損失額を直接減額します。

一方、独立間接控除形式では、建物の取得価額はそのままで、減損損失累計額という科目を使って、減損損失を反映させます。

その結果、直接控除方式と独立間接控除形式では、貸借対照表の表示も変わってきますので、注意が必要です。

 

直接控除方式(原則法)の貸借対照表の表示

建物 6,000,000
減価償却累計額 3,000,000
独立間接控除形式(容認)の貸借対照表の表示

建物 10,000,000
減価償却累計額 3,000,000
減損損失累計額 4,000,000

まとめ

今回は、具体的な処理方法と仕訳例を解説しました。

減損会計は、会計処理の中でも非常に難しく、専門的であるため慎重に処理する必要があります。

今回は、減損処理について5つのステップ別に詳細に説明をしましたが、ステップごとに論点があり、確認しなければならないことが多々あるため、処理には時間がかかることに注意が必要です。

減損処理が必要となった場合、今回解説した減損処理の手順をしっかり確認しておきましょう。

 

執筆者情報/経理部IS
数十年間、上場企業とその子会社で経理業務に従事。
転職6回・複数の上場企業での経験を活かし、経理の転職に関するブログも運営中。

ブログ名:経理へ転職!https://www.keiri-manager.com/jobchange/

 

 

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