経理担当者で、社会保険についてしっかり理解している人はどれだけいるでしょうか?
社会保険というと、人事部門の担当範囲で経理には関係ないのでは?と思われる方もいるかもしれません。
しかし、経理では日常業務や決算業務、さらには年度の予算作成において、必ず社会保険に関する処理が発生します。
例えば、以下のような社会保険に関する経理処理があります。
・未払の社会保険料を、決算において仕訳起票
・労働保険料の費用計上
・来期の予算作成時における、社会保険料の計画値を算出
社会保険の定義
社会保険とは、以下の5つの保険のことをいいます。
・介護保険
・厚生年金保険
・雇用保険
・労災保険
この社会保険は、以下の表のように区分することができます。
社会保険のうち、「健康保険」、「介護保険」、「厚生年金保険」の3つは、狭義の社会保険とも呼ばれます。
一方、「雇用保険」、「労災保険」を2つ合わせて労働保険と呼ばれることもあります。
まずは、この社会保険に関する用語の理解が必要です。
特に、「雇用保険、労災保険、労働保険」を混同している人も多く見受けられますので、注意してください。
社会保険に関する用語を理解していないと、正しい経理処理を行うこともできませんので、今一度、用語を確認しましょう。
健康保険の基礎知識
健康保険料の負担について
・保険料は、基本、会社と従業員が折半で負担します。
・保険料は、従業員の給与・賞与から控除します。
従業員が負担しなければならない保険料は、会社が給与から天引きします。
そして、保険料を給与から天引きするとき、経理では以下の仕訳を起票します。
給与 / 現金預金
/ 預り金
給料から天引きした保険料は、一度従業員から預ったあとに納付をしますので、「預り金」の勘定科目を使用して貸方に計上します。
健康保険料の納付について
・納付先は、会社が加入している健保組合などです。
・納付は、対象月の翌月末日までに行います。
⇒例えば、4月分の保険料は、5月末までに納付することになります
健康保険料は、会社と従業員が折半で負担しますが、会社が一括で納付をします。
経理では、以下の仕訳を起票して納付処理を行います。
法定福利費 / 現金預金
預り金 /
健康保険料の決め方
・健康保険料は、4~6月の報酬(給与)の支払額の平均値で、1年間の保険料が決まります。
なお、健康保険料が変更される時期は、9月分の保険料からとなります。
(給与の締日にもよりますが、9月または10月給与から天引きされる健康保険料が変更されます)
通常の年1回の健康保険料の変更以外にも、保険料が変更される場合があります。
例えば、昇給などにより基本給が変更された場合、その変更月から3か月分の報酬(給与)の平均値が、変更前の基本給より大きく変動した場合、保険料が変更されます。
※この保険料の変更については、「随時改定」と呼ばれています。
介護保険の基礎知識
介護保険とは、介護が必要な人に介護費用を一部を給付する制度で、40歳以上の人が加入します。(介護が必要になった時に備える保険です)
なお、健康保険と介護保険はそれぞれ別の保険ですが、社会保険の手続きでは2つ合わせて処理されます。
介護保険料の負担について
介護保険の保険料負担は、健康保険料と同じく会社と従業員が折半で負担します。
そして従業員の負担部分は、給与から天引きされます。
また、給与から天引きする経理処理も健康保険料と同様です。
介護保険料の納付について
介護保険料の納付は、健康保険料と合わせて会社が一括納付します。
また納付に関する経理処理も、健康保険と同じ処理となります。
介護保険料の決め方
介護保険料の決め方についても、健康保険料と全く同じです。
介護保険に関する手続きや経理処理は、基本、健康保険同じです。
健康保険との違いは、介護の費用を給付することを目的とした保険であることと、加入者が40歳以上であるという点です。
厚生年金保険の基礎知識
・仕事で病気やケガによって働けなくなった場合の障害年金
・厚生年金保険の加入者が死亡した場合、遺族に給付される遺族年金
※年金といえば、まず20歳以上60歳未満の国民全員が必ず加入する「国民年金」思い浮かびます。厚生年金保険は、国民年金に上乗せされて給付される年金と理解すればわかりやすいですね。
厚生年金保険料の負担について
厚生年金保険料の負担も、健康保険料と同じく会社と従業員が折半で負担します。
そして従業員の負担部分は、給与から天引きされます。
また、給与から天引きする経理処理も健康保険料と同様で、給与から天引きした金額を預り金として計上します。
なお、健康保険とは保険内容が異なるため、区別できるよう別に仕訳を起票しましょう。
給与 / 現金預金
/ 預り金
厚生年金保険料の納付について
厚生年金保険料の納付は、会社負担分と従業員負担分を合わせて会社が一括納付します。
なお、納付先は日本年金機構(年金事務所)となります。
会社が加入している健康保険が協会けんぽでない場合、健康保険料と厚生年金保険料は納付先が異なります。(健康保険料は健保組合へ、厚生年金保険料は日本年金機構へ納付)
納付に関する経理処理は、以下の仕訳を起票します。
仕訳は健康保険と同じですが、保険の内容が異なるため区別できるよう別に仕訳を起票しましょう。
法定福利費 / 現金預金
預り金 /
雇用保険の基礎知識
雇用保険料の負担について
・雇用保険料の負担は、会社と従業員が負担します。
・ただし、負担割合は「会社>従業員」となり、従業員より会社が多く負担することになっています。
従業員の負担部分は、給与から天引きされます。
保険料を給与から天引きするとき、経理では以下の仕訳を起票します。
雇用保険料天引きの仕訳例
給与 / 現金預金
/ 立替金等※
※雇用保険料を納付するとき、従業員負担分を立替金等で計上している場合(詳細は後述)
雇用保険料の納付について
雇用保険料は、1年間(4月~3月)に支払った従業員の給与や賞与の総額に、雇用保険料率を乗じて計算します。
計算された保険料は、年に1度、会社がまとめて納付します。
また納付は、年3回分割納付も可能です。(一括納付か、3回分割納付か選択できます)
雇用保険の納付で注意すべきことは、「納付額は概算」であるということです。
雇用保険納付における注意点
・過去1年間を基準に算定しているため、納付額は当期の確定額ではありません。あくまで昨年度の確定額を基準とした概算納付額です。
・概算納付額と確定額との差額は、概算納付するときに一緒に納付します。
重要なのは、納付額は概算であるという点です。
この雇用保険の納付額の意味を理解していないと、正しい経理処理ができないため十分に注意をしてください。
雇用保険納付における経理処理
雇用保険の納付額は、概算であると説明しました。
概算額を経理ではどのように処理すべきか、疑問に思うところです。
この処理については、国税庁のホームページに記載があります。
国税庁ホームページ:法人税基本通達 9-3-3 労働保険料の損金算入の時期等
法人税基本通達では、概算保険料を納付したときは、会社負担分は費用に計上し、従業員負担分は立替金等に計上するということとされています。
法定福利費(会社負担部分) / 現金預金
立替金等(従業員負担部分) /
また、概算納付時には「前払費用」といった科目を使い、毎月費用計上していくという方法もあります。これは毎月の雇用保険に係る費用を平準化していくという方法です。
雇用保険の納付に関する経理処理については複数の方法がありますので、会社の方針に従って処理する必要があります。
労災保険の基礎知識
労災保険とは、
・仕事中や通勤中に起きた事故でのケガに対する手当
・仕事が原因で起きた病気に対する手当
・仕事中や通勤中に起きた病気やケガの後遺症や死亡した際の手当や補償
・仕事中や通勤中に起きた病気やケガのために休業した際の給与の補償
このような手当や補償を給付するための保険です。
この労災保険は、短時間勤務者を含むすべての従業員が対象となります。(正社員だけでなくパートやアルバイトも含まれます)
労災保険料の負担について
労災保険料は会社負担となります。
同じ労働保険である雇用保険は会社と従業員双方で負担しますが、労災保険は全額会社負担です。
なお、会社の業種によって会社が負担する労災保険の割合が異なることがあります。(建設業や鉱業といった労災の発生可能性が高い業種では、保険割合が高い傾向にあります)
労災保険料の納付について
労災保険料は、雇用保険と合わせて納付します。
雇用保険料と同様に、1年間(4月~3月)に支払った従業員の給与や賞与の総額に、保険料率を乗じて計算した後、年に1度会社が納付します。
年3回分割納付についても雇用保険と同じです。そして労働保険料の納付も「概算納付」となっています。
雇用保険料との違いは、全額会社負担となりますので、経理処理では納付額全額を法定福利費で計上します。
法定福利費(会社負担部分) / 現金預金
また、雇用保険と同様に、概算納付時に「前払費用」といった科目を使い、毎月費用計上していくという方法もあります。毎月の労災保険に係る費用を平準化するために処理する方法です。
労災保険は、雇用保険と同様に概算納付となりますので、経理処理も雇用保険に合わせて同じ処理をする必要があります。
まとめ
→ 狭義の社会保険料に分類される
→ 会社と従業員が保険料を折半で負担
→ 基本、年1回保険料が改定される
→ 対象者は従業員全員(一部条件あり)
→ 狭義の社会保険料に分類される
→ 40歳以上の人が加入
→ 会社と従業員が保険料を折半で負担
→ 基本、年1回保険料が改定される
→ 対象者は従業員全員(一部条件あり)
→ 狭義の社会保険料に分類される
→ 会社と従業員が保険料を折半で負担
→ 基本、年1回保険料が改定される
→ 対象者は従業員全員(一部条件あり)
→ 労災保険と合わせて「労働保険」と呼ばれる
→ 会社と従業員が保険料負担(会社の負担割合が大きい)
→ 年に1度(6月)概算保険料を会社がまとめて前払い
→ 対象者は従業員全員(一部条件あり)
→ 雇用保険と合わせて「労働保険」と呼ばれる
→ 会社が保険料を負担
→ 年に1度(6月)概算保険料を会社がまとめて前払い
→ 対象者は、従業員全員
執筆者情報/経理部IS
数十年間、上場企業とその子会社で経理業務に従事。
転職6回・複数の上場企業での経験を活かし、経理の転職に関するブログを運営中。
ブログ名:経理へ転職!https://www.keiri-manager.com/jobchange/