今回は、「商標権」の経理処理方法について解説します。
自社で商品やサービスを販売する際、その商品やサービスに付与する名称や目印(ロゴなど)を「商標」といいます。
この商標は、他人に勝手に使われてしまうと、自社の商品やサービスが他人のものと区別できず、ビジネスにも悪影響を及ぼしてしまいます。
そこで、商標を他人に勝手に使わせないようにする権利である「商標権」を取得し、自社の商品やサービスを他人のものと区別する必要があります。
この商標権の取得は、日々発生するようなものではありませんが、発生の都度、経理処理する必要があります。
そこで今回は、
商標権の取得に関する経理処理について、要点を絞ってわかりやすく解説します。
商標権を取得し経理処理を行う場合には、ぜひこの記事を参考にしてください。
商標権とはなにか?
商標権の経理処理を確認する前に、まず商標権とはなにかについて理解しましょう。
商標権とは、「商標を独占的に使用できる権利」という意味です。
企業は、自社の「商品」や「サービス」を販売するとき、名称、図形や記号などを使ったロゴなどを付与して販売します。
その名称、図形や記号などを使ったロゴなどを「商標登録」します。
「商標登録」をすると、その名称、図形や記号などを使ったロゴなどについて、「他人が勝手に利用できない」ようにすることができます。
商標権をわかりやすく噛み砕いて説明すると、
自社の商品やサービスに付与する「名称、図形や記号などを使ったロゴなど」を他人に勝手に使わせない権利
ということができます。
この商標権、一度登録すると永続的に有効となるわけではありません。
有効期間があり、「商標登録の日から10年間」となっています。
有効期間を更新することで、更に10年間延長することができます。
商標権取得の経理処理方法
商標権の経理処理方法は、以下のとおりです。
・商標権の取得にかかる金額が20万円以上の場合、無形固定資産に計上します
・無形固定資産に計上した場合、償却の年数は10年となります
・償却は、定額法で残存簿価0円になるように処理します
なお、商標権の取得にかかる金額が20万円未満の場合は、他の固定資産と同様、以下の処理をすることになります。
・10万円以上20万円未満の場合 ⇒ 一括償却資産として計上します
・10万円未満の場合 ⇒ 費用計上します
※商標権の取得にかかる金額は、少額に収まることが多いため、固定資産へ計上をすることはあまりないと思われます。
商標権取得による資産計上方法
商標権取得による経理処理の中で、特に注意しなければならないことがあります。
それは、
「商標権の取得にかかる金額のうち、どこまでを固定資産として資産計上するか?」
ということです。
商標権の取得にかかる金額のうち、固定資産として資産計上するものは、以下の2つとなることを理解しておく必要があります。
・デザイナーに支払う、ロゴマークなどのデザイン料
・特許事務所の弁理士に支払う、商標権の調査手数料※
(※商標権登録のために弁理士が行う、調査作業等の手数料です)
商標権の取得では、この2つ以外にも費用がかかります。
・商標出願や登録するときの印紙代
・商標の登録時にかかる出願費用等(弁理士への出願代理手数料、行政へ支払う登録手数料等)
これらの費用は、固定資産として資産計上せず、直接費用として計上します。
商標権の取得にかかる金額のうち、「固定資産として資産計上するもの」と「費用計上するもの」についての区分は、以下のように考えると理解しやすくなります。
・商品のロゴマークなど、商標登録の前までに要した費用
(ロゴマークのデザイン料、事前の弁理士調査費用など)
⇒ 固定資産計上
・商標登録の手続き開始から終わるまでに要した費用
(登録・出願費用、印紙代など)
⇒ 費用計上
商標権には10年間の有効期間がありますが、その有効期間を更新するとき、更新費用が発生します。
この更新について、直接支出した費用があれば、その費用を資本的支出として固定資産へ計上しなければならないことにも注意が必要です。
(更新にかかる印紙代や登録手数料は、費用計上で問題ありません)
商標権取得に係る消費税の扱い
商標権を取得する際に発生する費用と、それに係る消費税の扱いは以下のとおりです。
⇒デザイン料という役務の提供にかかる対価なので、消費税は課税
・特許事務所の弁理士に支払う、商標権の調査手数料や商標権登録の代行手数料
⇒商標登録にかかる役務の提供なので、消費税は課税
・商標出願や登録するときの印紙代
⇒税金の支払いと同じものなので、消費税は不課税
・商標の登録料
⇒国等が行う一定の事務に係る行政手数料なので、消費税は非課税
このように、商標権を取得する際に発生する費用は、内容によって消費税の扱いが異なります。
商標のデザイン料や、商標登録手続きを特許事務所へ依頼し、請求書を受け取った際には、必ず請求書の内訳をチェックします。
そして、その内訳から消費税の課税・不課税・非課税を区分し、正しい消費税の処理をしなければなりません。
商標権取得時の仕訳は?
商標権を取得した際、経理処理で起票する仕訳は、以下のとおりになります。
ここでは事例を使って、仕訳を解説します。
・特許事務所の弁理士に支払った、商標調査料 300
デザイン料や商標調査料は、商標登録の前までに要した費用であるため、「商標権」として固定資産計上されます。
またこの費用は、役務の提供にかかる対価であるため、消費税が課税されます。
・商標出願に登録するときに発生した登録料 50
・弁理士に支払う商標登録の手数料 200
商標出願や登録時に発生する印紙代と登録料は、「租税公課」に計上します。
(登録料といった行政手数料は、「支払手数料」で処理する会社もあります)
弁理士へ支払う商標登録の手数料は、「支払手数料」に計上します。
また消費税は、「印紙代は不課税」、「登録料は非課税」、「弁理士の商標登録手数料は課税」として処理されます。
このように、商標権の登録にかかる経理処理では、固定資産として計上されるものと、費用計上されるものが混在し、消費税の扱いも異なります。
請求書の内訳をしっかりチェックして、計上する勘定科目とそれにかかる消費税の処理をする必要があります。
まとめ
今回は、商標権の経理処理方法と資産計上の処理方法について解説しました。
また、商標権取得する際に発生する、消費税の扱いについても事例を用いながら説明をしました。
商標権とは、
自社の商品やサービスに付与する「名称、図形や記号などを使ったロゴなど」を他人に勝手に使わせない権利
であり、この権利は登録の日から10年間有効です(延長可)
商標権の取得にかかる費用のうち、商標のデザイン料や商標権の調査手数料が20万円以上の場合、その費用を固定資産として計上することになります。
(基本的には、商標登録の前までに要した費用が資産計上対象となります)
そして、商標権の取得時の費用には、印紙代や行政に支払う商標権の登録料が含まれており、それらの費用は消費税が不課税や非課税となるため、経理処理の際には注意が必要です。
商標権の取得に関する経理処理は、固定資産計上するものと費用計上するものが混在していたり、商標権取得時の費用にかかる消費税の扱いが異なっていたりと、意外と複雑です。
商標権取得の取引が発生したときに正しい経理処理ができるよう、今回の内容をしっかり理解しておきましょう。
執筆者情報/経理部IS
20年以上にわたり、上場企業とその子会社で経理業務を経験。
転職6回・複数の上場企業での経験を活かし、経理を中心とした仕事に役立つ情報をブログで発信中。
ブログ名:経理課長の仕事術 https://www.keiri-manager.com/