会社は、毎年決算作業を行う必要があります。
そして、その決算作業において「決算書」を作成し、これを利害関係者※に「開示」します。
(※利害関係者=株主、金融機関、取引先など会社の事業で関わる者)
決算書を作成し、利害関係者に開示することを「決算開示」といいますが、会社の規模や形態によって開示する内容や範囲が異なります。
特に、上場企業では、小規模会社・非上場企業に比べ、開示する内容や範囲が広いため、開示の作業だけでもかなりの時間を要します。
そこで今回は、上場企業にとって大変な作業である「決算開示」とはどのような作業なのかを解説していきます。
上場企業の経理や開示に興味がある方は、ぜひチェックしてみてください。
上場企業が決算開示する目的
「決算開示」の主な目的は、株主、取引先や金融機関などに、会社の収支や資産状況の報告をすることです。
これは、上場企業に限らず、小規模な会社・非上場企業であっても同様です。
株主に対して決算開示する目的は、会社が健全な状態にあるか、会社が法令に従い正しく運営されているか、会社は将来どのように成長していくのかといった情報を提供し、投資の判断をしてもらうためです。
取引先や金融機関に対して決算開示する目的は、会社の収支や資産状況といった情報を提供し、今後取引を続けてよいのか、融資をこのまま続けてよいのかを判断してもらうためです。
利害関係者によって決算開示する目的は異なりますが、会社を運営する上で、この決算開示は非常に重要なものです。
特に上場企業は、小規模な会社・非上場企業と比較して、多くの利害関係者が関わっているため、この「決算開示」は、会社の中でも最重要事項となります。
そして、多くの利害関係者に会社の決算状況を知ってもらうため、定期的にできるだけ多くの決算情報を開示していく必要があります。
そのため上場企業の、決算開示の頻度や開示する情報は、小規模な会社・非上場企業と比べるとかなり多く、その開示作業はかなり大変なものとなります。
上場企業の決算開示義務
上場企業には、法律や規則に従って決算開示する義務が定められています。
開示書類 | 法律・規則 |
決算短信 | 証券取引所規則 |
招集通知 | 会社法 |
四半期報告書 | 金融商品取引法 |
有価証券報告書 | 金融商品取引法 |
それぞれの法律や規則によって、決算開示する日程・内容が異なります。
上場企業は、それぞれの法律や規則によって、種類の異なる決算開示を行わなければならないため、決算開示の作業にかなり多くの時間を費やすことになります。
上場企業の年間決算開示スケジュール
決算開示は、それぞれの法律や規則によって開示の期日が定められています。
そのため、その期日に間に合うよう決算開示のスケジュールを決めていく必要があります。
上場企業の年間決算開示スケジュール(3月決算を例とする)
・7月下旬~8月上旬 第1四半期決算短信を開示
・8月上旬 第1四半期四半期報告書を開示
・10月下旬~11月上旬 第2四半期決算短信を開示
・11月上旬 第2四半期四半期報告書を開示
・1月下旬~2月上旬 第3四半期決算短信を開示
・2月上旬 第3四半期四半期報告書を開示
・4月下旬~5月上旬 決算短信を開示
・5月下旬~6月上旬 招集通知を開示
・6月下旬 有価証券報告書を開示
このように、上場企業では3か月ごとに決算開示を実施します。
そして期末の決算では、決算短信・招集通知・有価証券報告書と、決算開示が立て続けに行われていきます。
上場企業の決算開示の種類と作業
上場企業の決算開示は、法律や規則によって種類が異なります。
そして、法律や規則によって開示する期日や内容が違うため、やるべき決算開示の作業も異なります。
ここでは、法律や規則によって異なる決算開示について、開示の種類ごとにどのような作業を行うかを解説していきます。
4つの決算開示の種類
・決算短信
・招集通知
・四半期報告書
・有価証券報告書
決算短信の開示とは
決算短信の開示とは、証券取引所が定める規則に従い、3か月ごとに所定の様式に従った決算書類を作成し、証券取引所へ提出する決算開示です。
決算短信は、証券取引所の自主規制に基づく開示であり、法律によって規定されているものではありません。
この決算短信は、サマリーといった直近の会社の業績動向、業績に関する説明、貸借対照表や損益計算書といった決算書を開示します。
証券取引所は、この決算短信を毎四半期の決算締日から45日以内に開示することとし、できれば30日以内の開示がより望ましいとしています。
そのため上場企業は、できるだけ30日以内に決算短信を開示できるよう、決算とその開示作業を集中して行う必要があります。
なお、上場企業の決算短信は、証券取引所が運営するTDnetで誰でも閲覧可能です。
(ほとんどの会社では自社のホームページにも決算短信を載せています)
決算短信の開示作業
決算短信は、決算速報という意味を持っており、できるだけ早く開示することが求められています。
そのため、決算を行う経理部門は、決算短信の作成を目指して集中して決算作業を行うことになります。
・まず、連結決算(子会社がない場合は単体決算)をその月の第3週あたりまでに確定させます。
・そこから、業績分析を行い、業績に関する説明分を作成します。
・同時に、決算短信の開示様式に、決算数値を入力していきます。
・決算短信の体裁が整った時点で、会社の取締役会や役員へ説明し、開示が承認されます。
・社内承認された決算短信は、証券取引所が運営するTDnetという適時開示情報伝達システムに開示データ登録をして、開示します。
招集通知の開示とは
招集通知とは、株主総会を招集するにあたり株主に対して行う通知をいいます。
会社法という法律によって、株主総会を招集するときに必要となる決算書類の内容や書類の開示期日が決められています。
招集の際、以下の書類を開示することになります。
・計算書類
・事業報告
・監査報告書
・株主総会参考書類
招集通知の開示作業
招集通知の開示作業は、期末の決算短信作成後に行います。
招集通知に添付する書類は、決算に関する情報のみならず、
・事業の状況
・従業員の状況
・役員の状況
・発行する株式の状況
といった情報も、書類にまとめて開示する必要があります。
加えて、株主総会で決議する議案の内容も株主に提出しなければならないことから、決算を行う経理部門だけで招集通知の開示書類を作成することは困難です。
そのため、一般的には、株主総会を取り仕切る総務部門などが中心となって、招集通知の開示書類を作成することになります。
招集通知の開示書類のうち、経理部門は、貸借対照表や損益計算書を記載する計算書類の作成を担当する場合が多くあります。
また、監査法人は監査対象となる計算書類について監査を実施します。(それ以外の書類もチェックすることが多いですが)
この招集通知は、決算以外の情報も多く記載しなければならないことから、会社の管理部門の担当者が協力して開示作業をしてきます。
各部門の作成担当者が複数人で作業をするため、同時にWeb上で作業ができる開示システムを使って、書類の作成を進めていくのが一般的です。
四半期報告書の開示とは
四半期報告書の開示とは、金融商品取引法に従い、3か月ごとに所定の様式に従った決算書類を作成し、金融庁のシステムであるEDNET(金融商品取引法に基づく有価証券報告書等の開示書類に関する電子開示システム)を通じて内閣総理大臣へ提出する決算開示です。
財務省の出先機関で全国に10か所ある財務局が、提出の窓口となっています。
この四半期報告書は、企業の概況、業績に関する説明、発行する株式の状況、貸借対照表や損益計算書といった決算書を開示します。
金融商品取引法では、四半期報告書を毎四半期の決算締日から45日以内に開示しなければならないと規定されています。
そのため、上場企業はできるだけ45日以内に四半期報告書を開示できるよう、決算とその開示作業を集中して行う必要があります。
また、四半期報告書は監査法人の監査を受けなければならないため、作成が終了するまでにはそれなりの時間がかかります。
なお、上場企業の四半期報告書は、金融庁が運営するEDINETで誰でも閲覧可能です。
(四半期報告書は、自社のホームページに載せていない会社もありますので、EDINETで参照することをおすすめします)
四半期報告書の開示作業
四半期報告書は、決算短信ほど早く開示する必要はありませんが、毎四半期の決算締日から45日以内の開示が求められているため、迅速な作成作業が求められます。
決算を行う経理部門は、同時期に行う決算短信作成と連動して、四半期報告書を作成することになります。
(会社によっては、決算短信と四半期報告書を同じ日に提出する場合もあります)
四半期報告書の開示作業の流れは、以下のとおりとなります。
・決算短信を作成後、四半期報告書の作成に取り掛かります。
・四半期報告書の中でも、作成が終了している箇所から順に監査法人が監査をします。
・決算短信と被る部分(決算書など)は、決算短信のデータをそのまま使って四半期報告書に反映させます。
・監査法人の監査が終了し、問題がなければ監査報告書を受領します。
・会社の取締役会や役員へ説明し、開示が承認されます。
・金融庁が運営するEDNETという開示システムに開示データを登録をして、開示が行われます。
有価証券報告書の開示とは
有価証券報告書の開示とは、金融商品取引法に従い、事業年度ごとに所定の様式に従った書類を作成し、金融庁のシステムであるEDNETを通じて内閣総理大臣へ提出する決算開示です。
四半期報告書は3か月に1度開示するものですが、有価証券報告書は年1回開示します。
たとえば、3月決算会社の開示対象期間は、
・4~6月 第1四半期の四半期報告書を開示
・4~9月 第2四半期の四半期報告書を開示
・4~12月 第3四半期の四半期報告書を開示
・4~3月 有価証券報告書を開示
このような期間で開示することなります。
有価証券報告書は、企業の概況、事業の状況、設備の状況、発行する株式や株価の状況、役員の状況、コポーレートガバナンスの状況、そして貸借対照表や損益計算書といった決算に関する情報を開示します。
前述した、四半期報告書とは比べものにならないくらい、多くの情報を開示しなければなりません。
また有価証券報告書は、金融商品取引法により、事業年度終了後3か月以内に開示しなければならないと規定されています。
そして四半期報告書同様、有価証券報告書も監査法人の監査を受けなければなりません。
このように情報量が多く、監査法人の監査を受けなければ有価証券報告書の開示は、作成スケジュールがタイトなこともあり、株主総会終了後に提出する会社がほとんどです。(株主総会開催前に提出は可能)
なお、上場企業の有価証券報告書は、金融庁が運営するEDINETで誰でも閲覧可能です。
(有価証券報告書は、自社のホームページに載せていない会社もありますので、EDINETで参照することをおすすめします)
有価証券報告書の開示作業
有価証券報告書は、事業年度終了後3か月以内という開示期限があります。3か月というと時間的に余裕があると感じます。
しかし、開示しなければならない情報量が多いこと、決算短信や招集通知といった開示作業も同時期に行わなければならいことから、作成スケジュールは非常にタイトなものとなります。
・決算短信を作成後、招集通知を作成を行います。
・招集通知作成後、Webの開示作成システムで、有価証券報告書の作成を開始します。
・決算短信や招集通知と被る情報(決算書など)は、そのデータをそのまま使って有価証券報告書に反映させます。
・作成と同時に確定した箇所から、監査法人の監査が実施されます。
・監査法人の監査において、問題がなければ監査報告書を受領します。
・会社の取締役会や役員へ説明し、開示が承認されます。
・金融庁が運営するEDNETという開示システムに開示データを登録をして、開示が行われます。
有価証券報告書は、決算短信、招集通知を作成した後に、開示作業を進めていきます。
有価証券報告書に記載する内容は、決算情報にとどまらず、企業の概況、事業の状況、株式や株価の状況、役員の状況、コーポレートガバナンスの状況まで、開示内容が広範囲に渡るため、経理部門だけで作成することは困難です。
そのため、管理部門のみならず、事業を行う部門からの協力も得て、全社一丸となって有価証券報告書を作成するということになります。
そして有価証券報告書は、四半期報告書同様、Webの開示作成システムにアクセスして、作成担当者が同時に作業を進めていきます。
この有価証券報告書の作成は、事業年度終了後の2か月後あたりから作成が本格化してきます。
その前段階として決算確定し、決算短信開示、招集通知開示といった作業もこなしつつ、有価証券報告書の作成も進めるわけですから、これらの作業を行う開示担当者はもうひと踏ん張り!といった気持ちを持って仕事を進めていきます。
有価証券報告書の開示作業は、決算開示最後の山場とも言えます。
この有価証券報告書の開示が終了すれば、決算開示担当者はやっと一息つけると思われますが、すぐに第1四半期の決算開示対応が待っています。
実は、もう少し忙しい状況が続いていく、これが決算開示の現状です。
まとめ
今回は、上場企業が行う「決算開示の作業」について解説しました。
上場企業の決算開示は、法律や規則によって種類が異なります。
そして開示しなければならない情報量も多く、期日タイトであるため、開示作業はかなり大変です。
かなり大変な作業ではありますが、株主、取引先や金融機関などの利害関係者に、会社の決算状況を開示する重要な仕事であり、やりがいもあります。
また、この決算開示は専門的な仕事であり誰でも簡単にできるものではないため、社内外でその経験が評価されます。
上場企業の決算開示に関する書類を閲覧する場合、裏で大変な開示作業があるということ、少しでも理解してもらえたら幸いです。
執筆者情報/経理部IS
20年以上にわたり、上場企業とその子会社で経理業務を経験。
転職6回・複数の上場企業での経験を活かし、経理を中心とした仕事に役立つ情報をブログで発信中。
ブログ名:経理課長の仕事術 https://www.keiri-manager.com/