個人事業主や小規模の企業を経営している方には節税対策として有名な「小規模企業共済」。今回は小規模企業共済の加入を今から検討したい方に向けて、小規模企業共済の基本的なことについてみていきます。
・小規模企業共済とは何なのか?
・小規模企業共済のメリット、デメリット
・小規模企業共済の加入方法
小規模企業共済は毎月の掛け金を全額所得控除にすることができます。年間最大84万円の所得控除を利用できるため、加入資格のある方にはぜひ一度加入を検討いただきたい制度です。
小規模企業共済とは?
小規模企業共済とは、個人事業主や小規模企業の経営者・役員が利用できる退職金の積立制度のこと。国の機関である独立行政法人 中小企業基盤整備機構(中小機構)によって運営されています。
申込を行い加入者になると、毎月自分で決めた金額の掛金を中小機構に納付します。そして、最終的に退職・廃業をする際にそれまでの積立額に応じた共済金を退職金として、または年金として分割で受け取ることになります。
このように、小規模企業共済とは自分で積み立てる退職金制度のことです。
小規模企業共済のメリット
小規模企業共済にはさまざまなメリットがあります。その中でも節税効果は魅力的で、個人事業主・中小企業の方が小規模企業共済に加入する理由のひとつにもなっています。
1.掛金を全額所得控除できる
毎月の掛金は全額所得控除の適用を受けることができます。「小規模企業共済等掛金控除」として、年間最大84万円(毎月の掛金が7万円の場合)の所得控除が得られます。
こちらの表で、毎月の掛け金・所得金額に応じた節税額を確認することができます。
引用:独立行政法人 中小企業基盤整備機構|掛金について
課税所得金額が600万円の方の場合、毎月7万円納付を行うと年間で255,600円もの節税をすることができます。掛金は年の途中で増額・減額、または前払への切り替えを行うことができます。
その年の売上額がどうなるのか不安な方は、しばらく売上の経過を観察し、売上額が十分にありそうだと判断できた場合は年末近くに7万円を1年分まとめて前納し、逆に売上額が少なそうな場合は少額のみ納付を行うなど都合に合わせて納付額を調整することができます。
掛金額・納付方法の変更には申請が必要となるため、期間に余裕を持って申し込みを行うようにしましょう。
参考:独立行政法人 中小企業基盤整備機構|掛金について
2.退職金・年金を選べる
廃業・退職を行うときには今までの納付金額に応じた共済金・解約手当金を受け取ることができます。
共済金の受け取り方法は退職金代わりとして一括受け取り・年金代わりとして分割受け取り・一括受け取りと分割受け取りの併用の3種類から選ぶことができます。個人のライフスタイルに合わせた選択をすることができますね。
3.共済金受取時も控除が使える
毎月の納付金額は全額所得控除となります。そして、最終的に共済金を受け取るときもその一部を所得控除することが可能です。そのときは退職所得、または公的年金等の雑所得を利用することができます。
4.貸付制度を利用できる
小規模企業共済の加入者は、掛金の範囲内(掛金納付月数により掛金の7~9割)で貸付制度を利用することができます。
・一般貸付制度
・緊急経営安定貸付け
・傷病災害時貸付け
・福祉対応貸付け
・創業転業時・新規事業展開等貸付け
・事業承継貸付け
・廃業準備貸付け
もしものときに利用できる貸付制度がこれだけ用意されています。
参考:独立行政法人 中小企業基盤整備機構|貸付制度について
小規模企業共済のデメリット
一見良いことだらけにみえる小規模企業共済ですが、もちろんデメリットもあります。加入の際はメリット・デメリットをしっかり理解した上で検討するようにしましょう。
1.短期間でやめると元本割れ・掛け捨ての可能性がある
小規模企業共済を短期間でやめることになると納付金額が掛け捨て、または元本割れする可能性があります。
例えば加入から6か月以内に個人事業主を廃業した場合、それまでに預けた掛金は全額掛け捨てとなります。また、加入から12か月以内に法人成りによって加入資格を失ったり、任意解約をした場合も掛金は掛け捨てとなります。
元本割れを起こすケースは、240か月(20年)以内に任意解約を行った場合、または途中で掛金額を変更したことによって、その掛金区分での納付月数が240か月を下回った場合です。
もし今後廃業や法人成りをする可能性がある方は、タイミングをしっかりと検討した上で加入するようにしましょう。
2.退職・廃業までお金を引き出せない
小規模企業共済は退職金代わりとして積み立てていくもの。そのため、個人の都合でお金を引き出すことはできません。
掛金を自分の手元に戻してもらうためには、解約を行う手続きがあります。任意での解約の場合、掛金期間が240か月(20年)を下回ると受け取れる金額は掛金の元本を下回ることになります。
3.最終的には課税対象となる
最終的に退職・廃業の際に受け取る共済金・解約手当金は課税対象となります。受け取り方法によって退職所得、公的年金等の雑所得、みなし相続財産、一時所得と分類が変わってきます。
毎月納付する掛金は所得控除となりますが、最終的には税金の納付が必要になります。しかし、メリットの「3.共済金受取時も控除が使える」にある通り、受け取る共済金全額が課税対象となるわけではありません。その点留意しておきましょう。
参考:独立行政法人 中小企業基盤整備機構|共済金(解約手当金)について
小規模企業共済の詳細
ここからは小規模企業共済についてより詳しくみていきましょう。
【加入資格】
小規模企業共済は加入資格のある方しか加入することができません。加入資格は以下の通りとなっています。
- 建設業、製造業、運輸業、サービス業(宿泊業・娯楽業に限る)、不動産業、農業などを営む場合は、常時使用する従業員の数が20人以下の個人事業主または会社等の役員
- 商業(卸売業・小売業)、サービス業(宿泊業・娯楽業を除く)を営む場合は、常時使用する従業員の数が5人以下の個人事業主または会社等の役員
- 事業に従事する組合員の数が20人以下の企業組合の役員、常時使用する従業員の数が20人以下の協業組合の役員
- 常時使用する従業員の数が20人以下であって、農業の経営を主として行っている農事組合法人の役員
- 常時使用する従業員の数が5人以下の弁護士法人、税理士法人等の士業法人の社員
- 上記「1」と「2」に該当する個人事業主が営む事業の経営に携わる共同経営者(個人事業主1人につき2人まで)
引用:独立行政法人 中小企業基盤整備機構|加入資格
上記のいずれかに該当する方は加入をすることができます。
加入について注意点がひとつ。それは、副業を行っているサラリーマンの方は加入資格がないという点です。節税目的で間違って申し込みを行わないように注意しましょう。
【掛金額】
掛金額は1,000円~70,000円の範囲内で任意の金額に設定することができます。500円単位で金額の設定が可能です。
掛金額は増額・減額も自由に行うことができます。変更方法は掛金月額変更申込書を記入の上、中小機構に郵送します。事業が軌道に乗るまでは少額で、売上が伸びてきてからは多めに支払いを行うなど個人の都合に合わせて設定できるようになっています。
参考:独立行政法人 中小企業基盤整備機構|掛金について
【支払方法】
掛金の支払方法は銀行口座からの引き落としのみとなっています。引き落としに指定できる口座は加入者本人名義の口座のみとなります。
引き落とし日は毎月18日です。掛金の納付方法は月払い・半年払い・年払いの6種類があります。年の途中で納付方法を変更することも可能です。
【加入方法】
申込をするためには、まず必要書類を入手する必要があります。契約申込書と預金口座振替申出書は中小機構のホームページから資料請求、またはダウンロードができます。
その他の必要書類は加入者の立場によって異なっています。
・個人事業主の方
確定申告書の控え(e-Taxを利用した方は、確定申告提出時に税務署から受付確認として送信されてきた「メール詳細」も必要)
・開業したばかりで確定申告書がまだない個人事業主の方
開業届の控え(e-Taxを利用した方は、確定申告提出時に税務署から受付確認として送信されてきた「メール詳細」も必要)
・法人の役員
履歴事項全部証明書など役員登記されていることが確認できる書類
・共同経営者の方
個人事業主の確定申告書の控え、または開業したばかりで確定申告書がまだない場合は開業届の控え(どちらの場合もe-Taxを利用した方は、確定申告提出時に税務署から受付確認として送信されてきた「メール詳細」も必要)
個人事業主と締結した共同経営契約書の写し
報酬の支払い事実が確認できる書類
参考:独立行政法人 中小企業基盤整備機構|加入手続き
【共済金(解約手当金)の受け取り方法】
廃業や退職をした際、今まで納付した掛金は共済金として受け取ることができます。退職金代わりとして一括で、または年金代わりとして分割して受け取っていくことも可能です。一括・分割を併用して受け取ることもできます。
参考:独立行政法人 中小企業基盤整備機構|共済金(解約手当金)について
加入前に一度は試そう!加入シミュレーション
中小機構のホームページでは、加入検討者向けに加入シミュレーションが提供されています。
仮で入力をした現在の年齢・脱退年月・掛金月額・課税所得金額の数値をもとに、受け取れる共済金額や節税効果、実質返礼率をシミュレーションできます。
このシミュレーションを利用することで、自分が加入すべきかどうか、また加入するなら最低何か月は加入しているべきなのかを数値をもとに確認することができます。加入を検討している方はぜひ利用してみるようにしましょう。
参考:独立行政法人 中小企業基盤整備機構|加入シミュレーション
まとめ
小規模企業共済は自分で積み立てる退職金です。加入資格は個人事業主、または小規模企業の経営者や役員となっています。毎月の掛金を全額所得控除できるため、節税を考えている方にはおすすめの制度です。
しかし、短期間で任意解約した場合、それまで支払った掛金のすべてが掛け捨てとなります。また、240か月(20年)以内の解約も元本割れに繋がります。
加入の際はメリット・デメリットをしっかりと確認するようにしましょう。