圧縮記帳の経理処理方法とは?上場企業の現役経理が解説します。

今回は、経理実務では頻繁には発生しないものの、重要な処理の1つである「圧縮記帳」について解説します。

企業では、国や地方自治体から補助金を受け取って建物や機械装置などの設備投資をする場合があります。

例えば、国や地方自治体が、企業にIT投資をしてもらうために補助金を出したり、農業を助けるために設備投資資金として補助金を出したりすることがあります。

この補助金は経理処理上、受け取ったときに収益として計上します。
そして収益を計上すると、それに対して税金が課税されます。

せっかく補助金を受け取って設備投資するのに、補助金に税金が課税されるのは、納得いきませんね。

この納得がいかない状況を解決する方法として、「圧縮記帳」という経理処理があります。

ここからは、この圧縮記帳の内容や経理処理について、具体的に解説してきます。

圧縮記帳とは?

圧縮記帳とは、補助金等が収益として計上された際に税金が課税されるため、それを減額調整し、補助金を受け取ったというメリットを大きくすることを目的とした経理処理のことをいいます。

この減額調整ですが、実際には税金の課税を繰り延べするというものです。
(税金の納付額を免除するものではありません)

受け取った補助金等に対し税金が課税されると、納付する税金もそれだけ大きくなります。

例えば、
補助金受給 100
法人税等の税率30%
としましょう。

この場合、
受け取った補助金100に対して、税率30%を乗じた結果、税金が30発生することなります。

100×30%=30(補助金に対して税金30が課税される)

この30という税金を全額課税せず、将来に渡って徐々に課税するように調整する方法(課税の繰り延べ)が圧縮記帳ということになります。

この圧縮記帳によって、

・補助金等を受給した年の税金の負担を軽くして、
・補助金等を受け取ったというメリットを大きくすること、

これが圧縮記帳の目的です。

圧縮記帳の処理ができる範囲

補助金等を受け取った場合、何に対しても圧縮記帳の処理ができるとは限りません。

圧縮記帳の処理ができる補助金等は、法人税法と租税特別措置法で規定されています。 (補助金以外でも圧縮記帳ができる場合があります。)

その主なものは以下のとおりです。

法人税法で規定されているもの
国庫補助金等で固定資産等を取得した場合
②保険金等で固定資産等を取得した場合
③交換により固定資産等を取得した場合

租税特別措置法で規定されているもの
①収用等に伴い代替資産を取得した場合
②特定の資産の買替え等により固定資産等を取得した場合

このような取引について、圧縮記帳することができます。

固定資産等を取得するために補助金等を受け取る場合には、基本的に圧縮記帳の処理ができます。

また、火災などによる固定資産の滅失等により支払いを受けた保険金を使って、代替資産を取得した場合に発生した保険差益も圧縮記帳の処理ができます。

その他、固定資産の交換、収用や特定資産の買い替え等により発生した譲渡益や差益に対しても圧縮記帳の処理が認められています。

このように、補助金以外でも圧縮記帳ができる場合があることを把握しておく必要があります。

圧縮記帳の経理処理の方法

圧縮記帳の経理処理の方法は、2つあります。

①直接減額方式

②積立金方式

この2つのうち、いずれかを選択して経理処理することになります。

なお会計処理上は、取得原価主義の観点から積立金方式を採用することが望ましいとされている点に注意が必要です。

取得原価主義 = 貸借対照表に記載する資産の価額は、資産の取得に要した支出額で計上すること。

直接減額方式とは?

直接減額方式とは、補助金等で取得した固定資産から補助金等の額を直接減額した後の金額で、固定資産を計上する方式です。

仕訳を用いて、具体的に経理処理を解説してみます。

受給した補助金100を使って、固定資産への投資150を実施しました。

補助金受給額 100
固定資産取得価額 150

この時、直接減額方式で処理した場合の仕訳は、

・補助金受給
 現金預金 100/補助金収入 100

・固定資産取得
 固定資産 150/現金預金 150

・圧縮記帳
 固定資産圧縮損 100/固定資産 100

このような仕訳が発生します。

直接減額方式では、同額の補助金収入と固定資産圧縮損が計上され、結果損益に影響がありません。
また、計上する固定資産の金額は、補助金等の額を減額した後の額となっています。

直接減額方式を使った課税繰り延べの方法とは?

上述で、圧縮記帳の目的は、税金が課税されるのを繰り延べすることだと説明をしました。

ここでは、直接減額方式で、どのように税金が課税されるのを繰り延べするのかを説明します。

先ほどの直接減額方式の説明では、

・固定資産取得価額 150
・圧縮記帳による固定資産の減額 ▲100

となっています。
この結果、固定資産の簿価は50となりました。

ここで、この固定資産の減価償却に注目しましょう。

仮に、取得した固定資産の減価償却を、5年定額法(償却率0.2)とします。

この場合、

圧縮記帳をしない場合の固定資産の減価償却費は、

150×0.2=30

と計算されます。

一方、圧縮記帳をした場合の固定資産の減価償却費は、

50 ×0.2=10

と計算されます。
圧縮記帳をした場合の方が、減価償却費の計上額が減りますね。

・圧縮記帳をしない場合の減価償却費 30
・圧縮記帳をした場合の減価償却費 10

減価償却費の計上額が減るということは、言い換えると収益が増えることになり、その分税金も増加するということです。

圧縮記帳をすると、圧縮記帳をした年は税金が減額されるのですが、翌年以降は減価償却費の計上額が減ることで、その分税金が増加することになります。

これがまさに、課税を翌年以降に繰り延べしていることになります。

積立金方式とは?

積立金方式とは、補助金等で取得した固定資産から補助金等の額を減額せず、「圧縮積立金」という科目を使って調整する方式です。

仕訳を用いて、具体的に経理処理を解説してみます。

受給した補助金100を使って、固定資産への投資150を実施しました。

補助金受給額 100
・固定資産取得額 150

積立金方式で処理した場合の仕訳は、

補助金受給
   現金預金100/補助金収入100

固定資産取得
 固定資産150/現預金150

圧縮記帳
 繰越利益剰余金100/圧縮積立金100

このような仕訳が発生します。

積立金方式では、補助金収入が収益として計上され、圧縮積立金が貸借対照表の純資産の部に計上されます。
この場合、補助金分の収益が増加し、税金も増額するのでは?と考えれます。

そこで、税金を増額させないように、税金計算で申告調整により圧縮積立金100を減額する調整を加えます。

ここが積立金方式のわかりずらい箇所です。

税金計算の申告調整では、以下のように圧縮積立金を減額調整します。

・補助金収入 100
・圧縮積立金 ▲100(申告調整)

この結果、損益はゼロとなり税金も増額しません。

積立金方式は、税金計算の申告調整という処理を理解する必要があるため、直接減額方式に比べて難しい処理となります。

しかし、どちらの方式も補助金等が収益として計上された際に、課税される税金を減額調整することができ、結果は同じことになります。

積立金方式を使った課税繰り延べの方法とは?

上述で、圧縮記帳の目的は、税金が課税されるのを繰り延べすることだと説明をしました。

ここでは、積立金方式で、どのように税金が課税されるのを繰り延べするのかを説明します。

先ほどの積立金方式の説明では、

固定資産取得 150
圧縮積立金 100

となっています。
積立金方式では、計上した圧縮積立金を毎期取り崩さなければなりません。

そして取り崩す方法は、取得した固定資産の減価償却に準じて行う必要があります。

例えば、取得した固定資産の減価償却を、5年定額法(償却率0.2)としましょう。

この場合、圧縮積立金の取り崩しは、

100×0.2=20 と計算されます
(減価償却費と同じように計算して取り崩しを行います)

そして、会計処理上は以下の取り崩しの仕訳を起票します。

圧縮積立金 20/繰越利益剰余金 20

ここでポイントなのが、

・圧縮積立金の取り崩し額は、税金計算で申告調整により利益として計上しなければなりません。
・そしてこの圧縮積立金を取り崩す処理は、毎期行う必要があります。

圧縮記帳をすると、圧縮記帳をした年は税金が減額されるのですが、翌年以降は圧縮積立金の取り崩しによる利益増で、税金が増加することになります。

これがまさに、課税を翌年以降に繰り延べしているということになります。

圧縮記帳のメリット、デメリット

圧縮記帳を行う場合には、そのメリット、デメリットを理解しておく必要があります。

圧縮記帳を行うかどうかは任意ですので、メリット、デメリットを理解したうえで、会社として圧縮記帳を適用するのが有利なのか不利かを判断しなければなりません。

圧縮記帳のメリット

圧縮記帳のメリットは、補助金等を受け取って固定資産を取得した年の税金の納付額を減額できるということです。(一時的な節税効果あり)

受け取った補助金等に対して課税されるのを避けるために、圧縮記帳の処理をして、納税額を減額することができます。

資金面からも、納税額を一時的に減額できるのが大きなメリットとなります。

圧縮記帳のデメリット

圧縮記帳のデメリットは、結局は課税を繰り延べするだけで、トータルの税金は減額されたわけではないということです。 (税金が免除されるわけではない)

課税を繰り延べをして、翌年以降の税金が増えるということになるという点においては、デメリットとも言えます。

結局は、
・補助金等が発生した期に補助金等に係る税金を一括で納付するのか、
・翌期以降に分割して納付するのかということになります。

資金的な面を考慮すると、圧縮記帳のメリットは大きいと思われます。

一方、資金に余裕がある企業の場合、特に圧縮記帳しなくてもよい場合もあります。

圧縮記帳は、企業の状況次第でメリットにもデメリットにもなりますので、その都度、圧縮記帳をすべきか検討する必要があります。

まとめ

今回は、経理処理の圧縮記帳について解説しました。

圧縮記帳は、

①補助金等が収益として計上された際に、税金の課税を繰り延べることができる。

②圧縮記帳の経理処理方法は2つある
・直接減額方式
・積立金方式

③圧縮記帳のメリットは、納税額を一時的に減額でき、資金面において有利

④圧縮記帳のデメリットは、翌年以降の税金の納付額が増える

以上の4点をおさえておけば、圧縮記帳の概要を理解していると言えます。  

圧縮記帳の処理は、定期的に発生するものではありませんが、いざ決算において処理が必要となった場合、すぐに対応できるよう理解を深めておきましょう。    

 

執筆者情報/経理部IS
20年以上にわたり、上場企業とその子会社で経理業務を経験。
転職6回・複数の上場企業での経験を活かし、経理を中心とした仕事に役立つ情報をブログで発信中。

ブログ名:経理課長の仕事術 https://www.keiri-manager.com/

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