1995年にWindows 95が発売されてから、四半世紀以上が経過しました。この間、世界中の企業の大半で、パソコンやタブレット、スマートフォンなどを使って業務を行うまでになりました。現在では、働き方改革や感染症対策により、業務フローの見直しをすると同時に、デジタルの力を使って変えていこうという動きが国内外の企業で活発化しています。
この記事では、「デジタルトランスフォーメーション(以下、DX)」の言葉の定義や、企業の導入事例について分かりやすく解説します。
1.DXって何?
DXの読み方
デジタルトランスフォメーション(Digital Transformation)の英語表記を略して「DX」と書くと、一見「デラックス」と読んでしまいそうですが、「ディーエックス」と読みます。
英語表記から考えれば、「DT」のほうが正しいと感じるかもしれません。これには「trans-」という接頭辞、単語の前にくっつける言葉が関係しています。ex-やtrans-といった接頭辞を、しばしばx-と省略することがあるからです。
DXの定義
2018年に経済産業省が公表した、『DXレポート:ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開』には、次のように定義されています。
企業が外部エコシステム(顧客、市場)の破壊的な変化に対応しつつ、内部エコシステム(組織、文化、従業員)の変革を牽引しながら、第3のプラットフォームを利用して、新しい製品やサービス、新しいビジネスモデルを通して、ネットとリアルの両面での顧客エクスペリエンスの変革を図ることで価値を創出し、競争上の優位性を確立すること
これだけではよく分からないので、もう少し噛み砕いてみましょう。
「transformation」には、変革という意味があります。変えるというと、「change」というワードが思い浮かびますが、changeよりも抜本的に変えて新しくしてしまうイメージです。
「企業が競争に勝ち抜くために、デジタルや最新テクノロジーの力を使って、ビジネスモデルや働き方、企業価値などを変えて(=transformation)いこう。そのためには、社会や市場の劇的な変化(例えば、緊急事態宣言の発令に伴う外出自粛やリモートワークの奨励、政権交代による施策の変更など)に対応していくほか、社員や会社の体質の変化も働きかけていこう」というふうに言い換えられるでしょう。
2.なぜ今DXが注目されているのか?
新型コロナウイルス感染拡大が起きた2020年、降って沸いたようにDXというワードがもてはやされるようになりました。そもそもなぜ今、DXはこれほどまでに注目されるようになったのでしょうか。
実は日本でDXが注目されるようになったのは、その2年前の2018年。経済産業省が公表した「DXレポート」が契機とされています。
このレポートでは、デジタル技術やIT人材を用いて既存のシステムを変革すること(=DX)を全ての産業に要求。実現できれば、2030年には実質GDP(国内総生産)が130兆円以上になっていると予想しています。
「2025年の崖」という問題
一方で「DXレポート」では、日本の企業の8割で旧型のITシステムを使用している現状に触れ、「現状のITシステムは部署ごとに構築されていて、デジタル技術の活用が難しいほど複雑化・老朽化・ブラックボックス化している」と指摘。複雑化・老朽化・ブラックボックス化した既存のITシステムを放置していると、「2025年以降、毎年最大で年間12兆円の経済損失が生じる可能性がある」という警告とともに、以下に挙げる事態が起きるとしています。
- 市場の変化に対応できず、デジタル競争の敗者になる
- システムの維持管理費が高額化し、IT予算の9割以上になる
- IT人材の不足、またサイバーセキュリティや事故・災害によるシステムトラブル、データ滅失のリスク発生の可能性が高まる
この一連の問題を「2025年の崖」問題と呼んでいます。経済産業省としては、「DXレポート」を発表することで、日本の企業に現状への危機感を抱かせ、DXの推進を促したいねらいがあります。
3.各社のDX成功事例
株式会社ZOZO
株式会社ZOZOが運営するECサイト「ZOZOTOWN」では、下記に挙げる独自のサービスを提供しています。
- 自分の体型に近いモデルのコーディネートを見てサイズ感をチェックできる「WEAR」
- 足のサイズを正確に測る「ZOZOMAT」
- 注文した商品を無料で返品できるサービス(有料会員のみ、一部商品を除く)
洋服や靴を実店舗で購入するときは、試着してから決めることがほとんどで、合わない場合はその場で返却可能です。一方、購入した商品が自分の体型にフィットしなくても、「一度着たから」という理由で、返品を断る通販サイトが多く存在します。アパレル業界が抱えるそうした問題の解決に貢献しています。
イタンジ株式会社
不動産賃貸業における、管理会社と仲介会社、エンドユーザー向けにAI(人工知能)のさまざまな技術を取り入れたサービスを提供している会社です。
不動産業界にはオーナー、管理会社、仲介会社、入居者と、多様な関係者が存在します。電話や紙、FAX、郵便、メールといったコミュニケーション手段でやり取りしているうえ、内覧対応や店舗での接客も業務として発生するので、従業員にかかる負担が増加し、無駄な残業、出社が発生していました。
そうした問題を解決するために、イタンジ株式会社では、自動追客および入居希望者とのコミュニケーションツール「nomad cloud(ノマドクラウド)」、物件確認から申込・審査受付までを自動化するパッケージシステム「ITANDI BB」を提供。自動応答システムやチャットボット、電子契約などをサービスの中に取り入れることで、情報の一元管理とコミュニケーションの円滑化を実現しています。
4.DXを進めるポイント
企業でDX導入を推進するときは、業務上の問題とDXを導入する目的を明確化したうえで、業務のどの部分に導入するかを決めておくことが大切です。
DXの導入が決まれば、情報共有、事務処理の一部といった比較的軽めの業務から、部署や組織の一部でスタートしていきます。その後社内の全ての部署の事務処理、業務システムヘのデータの入力やデータ照合、書類や文書の管理などの企業で日常的に行われている処理……と少しずつ範囲を広げていき、最後に顧客対応業務(電子契約や電子署名など)という順で展開していきましょう。
5.まとめ
DXに取り組んでいる企業の現状を調査したレポートに、「Digital Transformation Index(DT Index)」があります。これはデル・テクノロジーズ株式会社が2年ごとに実施している調査で、2020年11月に最新版が公開されました。それによると、以下の事実が判明しました。
- ⽇本企業の半数以上(54.5%)が、DXの取り組みを加速化している。しかし、グローバル平均(79.7%)と⽐較すると遅れを取っている。
- DX推進にあたり、⽇本企業の97.5%が何らかの障壁に直⾯している。
- DXを推進しないと、⾃社の生き残りに不安を感じている⽇本企業が61.5%。グローバル平均(32.3%)と比較しても非常に高く、DX推進に強い関心と意欲がある。
- 新型コロナウイルスの感染流行はリモートワークなどを加速させたが、あくまできっかけにすぎない。企業は、予算や資源の不足(33%)、社内の適切なスキルセットと専門知識の不足(28%)、データのプライバシーとセキュリティへの懸念(27%)をDX推進の阻害要因としている。
この結果は、「DXレポート」の内容をデータ的に裏づけています。
DXを推進するために、まずは部署内と経営陣の理解を得ることが大切です。新型コロナウイルスの感染流行によって、これまでの働き方に大半のビジネスパーソンが危機感を抱いている今こそ、業務フローの見直しを行いましょう。