建物や機械装置などの固定資産を修理したら、修繕費として費用処理するのが一般的です。
しかし、修理の内容によっては費用処理することができず、修理に要した支出を「資本的支出」として固定資産に計上しなければならない場合があります。
経理実務においては、修繕費として費用処理できるのか、それとも資本的支出として固定資産に計上しなければならないのか、判断に迷うことがあるため注意が必要です。
そこで今回は、どうやって修繕費と資本的支出を区分するのか?について、経理の現場で実際に行われている処理を具体的に解説していきます。
修繕費と資本的支出とは?
修繕費と資本的支出、具体的にはどのような内容なのでしょうか?
例えば、機械装置などを修理したり改良した結果、
・耐用年数の延長、価値や効用の増加もたらす ⇒ 資本的支出
・通常の維持管理、現状回復するだけ ⇒ 修繕費
というように区分することができます。
機械装置を修理した結果、機械装置の生産能力が増して、その機械装置の価値が上がったという場合は、その修理は「資本的支出」になります。
一方、機械装置が壊れて動かなくなったので修理したといった場合、その修理は、機械装置を使える状態を維持するために行っただけなので「修繕費」ということになります。
修繕費と資本的支出を区分する場合の実務処理
経理実務の中で、修繕費と資本的支出を区分するという判断は、非常に難しいというのが実態です。
ここからは、修繕費と資本的支出を実施した場合、どのように区分して経理処理すべきか実務的視点で解説します。
請求書や見積書の内容を細分化する
修繕を行う場合、見積書等に記載されている修理・改良等の工事でも、細分化すれば、資本的支出や修繕費に区分される場合があります。
個々の工事ごとに資本的支出か修繕費なのか、内容を精査することが必要です。
また、請求書等に間接費や値引きが記載されている場合もありますが、その金額もそれぞれ修繕費と資本的支出に按分する作業が必要となります。
修繕に関する請求書、見積書だからといって、すべてを修繕費として処理してしまうのは危険です。
経理処理する場合は、請求書、見積書の内容を精査し、修繕であるもの・資本的支出であるものを細分化する必要があります。
修繕箇所の現物の確認
修繕費や資本的支出が発生した場合、契約書、見積書、請求書等の書類のみで判断はせず、できるだけ現物確認をして、経理処理の妥当性を確認します。
修繕費と資本的支出の判断は非常に難しいところです。
経理処理する金額が大きい場合は、現物を見たほうが判断できる場合がありますので、修繕箇所の現物確認して判断する必要があります。
修繕費に該当した場合、関連資料や写真等を保管しておく
特に金額が大きい、大規模な修繕を実施した場合、
① 該当支出を修繕と判断した場合、その理由を説明できる資料を準備する必要があります。
② 修繕前と修繕後の補修状況を明らかにした写真を撮って保管します。
このような対応をする必要があります。
なぜこのような対応をしなければいけないのでしょうか?
その理由の1つとして、税務調査に備えるということがあります。
税務調査では修繕費と資本的支出の区分について、厳密にチェックされます。
なんでも修繕費として計上すると、利益減少→税金減少となり、意図的に納める税額を低く抑えていると疑われます。
税務調査で疑われないためにも、修繕であることを証明する資料や写真を保管しておく必要があるのです。
修繕に該当した場合、資料等に記載する禁止文言について
修繕として処理した修理・改良工事に係る、「稟議書」、「見積書」、「請求書」等の書類に、「改良、補強、改造、強化等」といった文言を記載することを控えてください。
このような文言は、耐用年数の延長、価値や効用の増加もたらすと思われてしまいます。
設備資産が壊れたため修繕しただけなのに、書類にこのような文言が記載されていると資本的支出ではないか?と思われてしまいます。
資本的支出と思われないためにも、「改良、補強、改造、強化等」といった文言を記載するのは控えてください。
修繕を依頼する取引先から提出された書類に、このような文言が記載されている場合は、可能であれば修正してもらう(書類の再発行)ことをおすすめします。
「改良、補強、改造、強化等」といった紛らわしい言葉を使った書類を元に経理処理すると、修繕費なのか資本的支出なのか分かりにくくなりますので注意が必要です。
フローチャートによる判断方法
実務上、資本的支出か修繕か判断が困難な場合は、法人税法基本通達で定められている基準を用いて判断する必要があります。
その基準とは、以下の図(フロー)に従って、資本的支出か修繕かを判断します。
このフローでは、形式基準と実質基準を用いて、資本的支出か修繕かを判断しています。
資本的支出か修繕かどうしても判断できない場合は、この図(フロー)に従って処理したことを、記録として残しておくことをおすすめします。
形式基準とは?
資本的支出と修繕費の区分は難しく、判断に迷うことが多いため、法人税基本通達に形式的な区分の基準が示されています。これに基づいて資本的支出と修繕費を区分している場合、税務処理上その処理が認められます。
具体的な形式基準の内容は、以下のとおりです。
・修理等が20万円未満だった場合や、3年以内の周期で行われる場合は、形式的に判断して修繕費として処理することができます。
・修理等のための費用が、60万円未満又はその資産の前期末取得価額の10%相当額以下である場合にも、修繕費として処理することができます。
・修理等のための費用が、30%相当額又はその資産の前期末取得価額の10%相当額のいずれか少ない方を修繕費として処理し、残額を資本的支出として形式的に処理している場合は、税務処理上その処理が認められます。
実質基準とは?
実質基準とは、修理といった名目によるものではなく、実態を明らかにして修繕か資本的支出かを判断する基準です。
・修繕によって資産の価値が高まったり、耐久性が高まるような場合は、例え名目上修理となっていても、資本的支出として固定資産計上をしなければなりません。
・単純に壊れた箇所を直すための修繕や、毎回定期的に行われているようなメンテナンスといった場合は、資産の価値が高まるものではないため、修繕費として処理することができます。
注意が必要な、資本的支出・修繕費の処理事例
資本的支出か修繕の区分について、判断するのが難しいことについて解説してきました。
さらに、資本的支出・修繕費の処理をするうえで、特に注意が必要な経理処理の事例をご紹介します。
①工事完了時期の注意点
事業年度内に修繕工事が完了していないにもかかわらず、工事業者に工事検収書等に記載する工事終了日付を調整してもらって、事業年度内に修繕費と処理した。
修繕費であっても、修繕工事が完了していない限り修繕費として計上することができません。ましてや工事終了日付を調整してもらうような行為は行ってはいけません。
修繕という事実に基づき、正しく経理処理を行う必要があります。
②取り替え工事の注意点
建物のスチールサッシをアルミサッシに取り替えたにもかかわらず、全額修繕費として処理した。
例えば、サッシを取り換えただけなので、特に価値が高まったとは言えないだろう。と安易に判断してはいけません。
サッシの取り替え工事を実施し、強度が増す種類のサッシに取り替えといった場合には、耐用年数の延長、価値や効用の増加もたらしているので、資本的支出として固定資産計上しなければなりません。
取り替え=修繕費
と安易に判断せず、取り替え工事の内容をしっかりとチェックすることが重要です。
③中古資産の購入時の注意点
中古建物を購入し、事業の用に供する際に行った雨漏り部分の補修、壁の塗り替え等補修に要した費用を修繕費として処理した。
中古資産を購入して、壊れていた箇所を使えるように修理した後、実際に事業の用に供したといった場合、この修理は修繕費として処理できないことに注意が必要です。
通常は、壊れていた箇所を使えるように修理しただけなのだから、修繕費として費用処理できると思われるかもしれません。
しかし、この場合の修理は中古資産を事業の用に供するための支出とみなされ、固定資産計上しなければなりません。
このように、購入した資産を事業で使う前、支出した修理などの費用は、修繕費として費用計上が認められないことにご注意ください。
④用途変更時の注意点
倉庫を事務室に改装した費用を修繕費として処理した。
建物等の固定資産について、改装して用途を変更する場合に支出した費用は、修繕費として費用処理することができません。
一見、建物の内部の構成が変わっただけであり、建物自体の耐用年数が伸びたわけではないので、修繕費で問題がないようにも思われます。
しかし、模様替え等のための改造や改装等に係る支出は、資産の価値が高まったとみなされ、資本的支出に該当することに注意が必要です。
⑤機械装置の移設における注意点
集中生産を行うための機械装置の移設費用を修繕費として処理した。
機械装置を移設した費用は、基本的に費用処理することができます。
しかし、集中生産して生産量増加アップなどを目的に機械装置を移設した場合、その移設費用は資本的支出として固定資産計上しなければなりません。
機械装置を移設する目的が、生産能力の増強または生産の効率化といった場合、移設した機械装置は効用・価値が高まるとみなされます。
(移設したことで、機械装置の生産能力や効率が実現するため)
このように、機械装置の移設費用は、移設目的によって経理処理が変わるため注意が必要です。
資本的支出に含める費用にも注意!
資本的支出として固定資産の取得価額に含める場合、付随的に発生する費用にも注意が必要です。
この付随的に発生する費用についても、経理実務処理において非常に間違いやすいため、具体的な内容をご紹介します。
②荷役費
③運送保険料
④購入手数料
⑤関税
⑥据付費
⑦試運転費
⑧任意(不動産取得税、事業所税、登録免許税、測量、設計、借入金利子等)
まとめ
今回は、修繕費と資本的支出に係る、経理実務の具体事例を解説しました。
修繕費と資本的支出の処理は、判断を伴うもので、非常に難しいものとなっています。
修繕費と資本的支出の処理はどの会社でも毎回発生する案件ですので、経理実務に携わる方はしっかりと理解しておく必要があります。
経理実務における「修繕費と資本的支出」、十分に注意して処理をしてください。
執筆者情報/経理部IS
20年以上にわたり、上場企業とその子会社で経理業務を経験。
転職6回・複数の上場企業での経験を活かし、経理を中心とした仕事に役立つ情報をブログで発信中。
ブログ名:経理課長の仕事術 https://www.keiri-manager.com/