今回は、会計上の有価証券の減損処理について解説します。
企業は、様々な目的をもって有価証券を保有することがあります。
例えば、
・時価の変動により利益を得ることを目的とする
・債券を満期まで保有して、利息を受け取ることを目的とする
・他企業への影響力の行使を目的とする
・業務提携等を目的とする
このように、それぞれの目的を達成するために有価証券を保有します。
そしてこの有価証券は決算期ごとに時価評価をし、さらに一定の条件を満たすと、減損処理をしなければなりません。
そこで今回は、会計基準上の有価証券の減損処理にスポットを当てて解説していきます。
有価証券の減損処理を理解するには、以下の3つの項目を押さえておく必要があります。
① 有価証券とはなにか?
② 有価証券の評価方法
③ 有価証券減損の具体的処理方法
この3つを順序立てて確認していくことで、有価証券の減損処理方法を理解することができます。
では早速、この3つの項目を確認していきましょう、
有価証券とは?
まず、最初に有価証券とは何か?を確認しましょう。
有価証券とは、
・会社が発行する株式や社債
・国が発行する国債
・地方自治体が発行する地方債
などのことをいいます。
有価証券の区分と内容
有価証券は保有する目的によって、4つに区分されます。
①売買目的有価証券
時価の変動により、利益を得ることを目的として保有する有価証券をいいます。
一般の事業会社では、短期的なトレーディング目的の株式売買をすることは稀ですので、基本的には売買目的有価証券を保有するようなことはありません。
②満期保有目的債券
企業が、満期まで所有する意図をもって、保有する社債その他の債券をいいます。
債券を満期まで保有して、利息を受け取ることを目的とするような場合に保有します。
③子会社株式及び関連会社株式
実質的な「支配力」や「影響力」の判定により決定された、子会社及び関連会社の株式をいいます。
子会社や関係会社への影響力の行使を目的として保有します。
④上記の①~③に当てはまらない有価証券
上記①~③に当てはまらない有価証券は、「その他有価証券」といいます。
その他有価証券は、営業取引関係、金融取引関係を強化することを目的として保有する場合があります。
有価証券の評価方法
有価証券は、保有する目的によって評価方法も異なります。
ここでは、保有する目的ごとに有価証券の評価方法を解説します。
①売買目的有価証券の評価方法
時価で評価し、簿価との差額を損益処理します。
時価は市場で取引される価格となり、時価で貸借対照表に計上されます。
②満期保有目的債券の評価方法
原則として取得原価で貸借対照表に計上されます。
ただし、債券を債券金額より低い価額又は高い価額で取得した場合で、取得原価と債券金額との差額が金利の調整と認められる場合には、償却原価法に基づいて計算された価額で貸借対照表に計上されます。
③子会社株式及び関連会社株式の評価方法
原則として取得原価で貸借対照表に計上されます。
④その他有価証券の評価方法
時価がある上場株式の場合は、期末に時価で評価します。 そして評価損益は、評価差額として貸借対照表の純資産の部に計上します。
時価がない非上場株式などの場合は、原則として取得原価で貸借対照表に計上されます。
有価証券の減損の処理方法
有価証券の減損処理とは、
時価が著しく下落したときは,回復する見込みがあると認められる場合を除き,時価をもって貸借対照表価額とし、評価差額は当期の損失として処理することです。
減損は、
・時価がある有価証券
・時価がない有価証券
それぞれで、処理の方法が異なります。
時価がある有価証券の減損処理
時価がある有価証券は、時価が「著しく下落」したとき減損します。
主に、上場企業の株式などがこれに該当します。
① 取得価額と時価を比較して、時価が50%以上下落した場合
時価が回復する可能性(※)がなければ、取得価額と時価の差額を減損処理します。
② 取得価額と時価を比較して、時価が30%~50%下落した場合
自社で、「時価が30%以上下落した場合、減損を検討する」といった独自の基準が設けられている場合、その基準に従って減損します。
自社で、より保守的に減損基準を設定する場合は、それに従って処理することも可能となっています。
(※)時価が回復する可能性があると認められる場合とは?
以下の内容に該当する場合、時価が回復する可能性があると認められます。
・時価の下落が一時的
・おおよそ1年以内には、時価が取得価額まで回復する見込み
時価が回復する可能性が認められれば減損は不要ですが、経理実務において時価が回復する可能性があることを証明することは、非常に困難です。
実際のところ、経理実務において時価が下落した場合には、減損せざるを得ない状況となります。
時価がない有価証券の減損処理
これは、主に子会社株式、関係会社株式や非上場会社の株式などが該当します。
時価がない有価証券は、株式の発行会社の財政状態の悪化により実質価額が著しく低下したとき、 減損することになります。
具体的には、以下の流れで減損を処理します。
① 株式の実質価額を計算
実質価額 = 株式の発行会社の1株当たりの純資産額 × 保有株数
② 所有株式の簿価と実質価額を比較
実質価額が、保有株式の簿価50%程度以上下落しているかを確認する。
③ 実質価額が将来簿価まで回復する可能性を検討
実質価額が、将来簿価まで回復する可能性があると認められる場合(※)には減損不要。
反対に、実質価額が、将来簿価まで回復する可能性がなければ減損を実施。
④ 減損額の算定
減損額 = 簿価 ー 実質価額
このような流れで、減損をします。
(※)実質価額が、将来簿価まで回復する可能性があると認められる場合とは?
実務上は、実質価額が将来簿価まで回復する可能性があることを証明するのは非常に困難です。
将来簿価まで回復することを証明するには、投資先の事業計画を入手し、
・事業計画が実行性あるもの
・5年以内に、財政状態の悪化から回復する可能性が高い
といった内容の証拠書類を集めて、客観的に証明する必要があります。
しかし、この内容を客観的に証明するには非常に難しく、 実務上は、実質価額が所有株式簿価の50%程度以上下落した時点で、減損してしまうことが多いのが実情です。
まとめ
今回は、有価証券の減損処理を理解するために、以下の3つの項目を解説しました。
①有価証券とはなにか?
②有価証券の評価方法
③有価証券の減損の処理方法
有価証券の減損判定及び減損処理は、決算期ごとに行う必要があります。
自社で有価証券を保有している場合には、事前にこの内容を理解して決算に備えておくことをおすすめします。
執筆者情報/経理部IS
20年以上にわたり、上場企業とその子会社で経理業務を経験。
転職6回・複数の上場企業での経験を活かし、経理を中心とした仕事に役立つ情報をブログで発信中。
ブログ名:経理課長の仕事術 https://www.keiri-manager.com/