2020年9月30日。改正電子帳簿保存法の施行を翌日に控えたこの日に「日本の経理をもっと自由に」プロジェクトから経済産業省へ嘆願書が提出されました。
それに伴い、同日午前10時30分より記者会見が開催されました。今回はその様子を現役経理である筆者がレポートします。
挨拶とプロジェクトの解説(前半パート)
このプロジェクトのゴールは?
はじめに主催である株式会社ROBOT PAYMENT 社長の清久氏からの挨拶が行われました。
そして「日本の経理をもっと自由に」プロジェクトを発足してから「請求書電子化の現場はどう変わったのか?」ということをメインに解説。
このプロジェクトのゴールは「請求書電子化率を50%」にすること。プロジェクト発足以降、請求書発行ベンダーである株式会社ROBOT PAYMENTへは問い合わせ数が増加したとのことです。このことから「請求書電子化の社会的ニーズが高まっていると感じている」と語ってくれました。
プロジェクトで進める5つのアクションプラン
プロジェクト責任者 株式会社ROBOT PAYMENT 藤田氏によると、今後本プロジェクトでは5つのアクションを通じて請求書の電子化を進めていくとのこと。
アクション1:嘆願書提出
プロジェクトより嘆願書を2020年9月30日経済産業省に提出。これにより、今まで以上に請求書の電子化を推進していくとのこと。
2020年10月1日に改正電子帳簿保存法が施行されました。これにより領収書・請求書のデータ保存の仕組みが以前に比べて緩やかなものへと変わりました。
しかし、藤田氏は法律が変わっても経理を取り巻く実態は変わらないと考えています。
その理由は、
・同法を適用させるためには請求書の電子化サービスを導入しなければならない
・同法を適用させるためには税務署に申請をしないといけない
ということがあげられ、つまるところ「法律が変わってもすぐに経理業務を変えられるわけではない」というところがネックであると感じられています。
経理業務を改正電子帳簿保存法に適用させるためには「コスト負担」が大きな課題となってきます。社内での予算の確保が障壁となり、直接売上に繋がらない間接部門のDXは後回しにされがちです。
このことが今回の経済産業省への嘆願書提出へと繋がったと藤田氏は語ってくれました。IT導入補助金拡充を通じてコスト負担の問題を軽減し、請求書の電子化によって経理の働き方を改善していきたいとの狙いです。
アクション2:エコシステム構想
プロジェクト側から他サービスとの連携を提案することで、電子化の導入をしやすくする環境提供をしていきたいというのが2つ目のアクションです。
システムをすべて入れ替えるとなるとハードルは高いですが、一部のシステムを変更したり、また1つだけ新しいシステムを入れる程度であれば総入れ替えよりハードルは下がるはず。
いろいろなシステムと連携させ、請求書の電子化部分だけをプロジェクトが提供することで、結果的に電子化が進むことを目指していくとのことです。
アクション3:自治体電子化推進
これは現場の経理としては嬉しい推進ではないでしょうか。
3つ目のアクションは、自治体のDXを協賛企業とともに支援し人・モノ・ノウハウを提供。そうすることで自治体の電子化を進め「自治体でも電子化しているのだから弊社も」という環境づくりを目指す。
「自治体がやっているので」は社内で稟議を通す際や予算を獲得する際に非常に心強い言葉ではないかと経理である筆者は感じました。
アクション4:カンファレンス開催
2020年10月22日開催予定のWebカンファレンスを通して、ツールに関する情報提供を行っていくことが4つ目のアクションです。
このアクションの目的は、自社内だけでは選定が難しい電子化ツールの情報を提供することで、各社の業務フローに合わせたツールを選んでもらいたいということ。
アクション5:電子化申請代行
今回筆者が一番驚いた情報はこちら。電子化申請代行です。
どのようなことを行うのかというと、稟議を含めた社内説得の支援を行ってくれるとのことです。各社の状況をヒアリングし、各社に合った電子化の情報を提供。ひいては電子化推進を行うことに社内で合意が得られるよう手助けをしてくれるサービスです。
興味のある方はこちらのフォームから申し込むことができます。
請求書電子化の経済効果
関西大学大学院会計研究科(会計専門職大学院)の宮本勝浩名誉教授の試算によると、請求書を電子化することで約1兆1,424億2,182万円の経済効果が得られます。
今後もプロジェクトを進めることで日本社会の発展や経理の働き方の改革に寄与していきたいと藤田氏が語り前半パートは終了となりました。
トークセッション(後半)
後半にはトーセッションが開催されました。
【トークセッション参加者】
国税庁:小倉氏
株式会社ROBOT PAYMENT:藤田氏
花王ビジネスアソシエ株式会社:上野氏
株式会社ワークスアプリケーションズ:秦氏
①今回の電子帳簿保存法改正に対する見解
藤田氏の見解
法律単体を変えても現状は変わらない。電子化の推進を進める必要がある。
秦氏の見解
ワークスアプリケーションズは大手企業がメインユーザー。それら企業との関りの中で、電子帳簿保存法の改正は電子化推進のための追い風になっていると感じている。先日行われたアンケートでも電子化に対する高いニーズが確認された。しかし、各社の業務改善の見直しはまだまだ進んでいない。我々ベンダーが啓蒙活動をしなければ。
上野氏の見解
待ちに待っていた改正。今後請求書はインボイス制度や複数税率が見込まれ、より複雑化すると考えられている。そのため、更なる法改正を期待している。
小倉氏の見解
電子帳簿保存法を利用して適正に帳簿保存・税務申告いただけるのはありがたい。今回の改正ではクラウド上で受け取った領収書・請求書なども(要件を満たせば)税法上の保存義務が認められる。ぜひご活用いただきたい。
②経理業務改善の実績ーどんな実績を持ってる?コロナになったこと何か変わった?
上野氏
花王ではコロナ禍以前に電子化に取り組み、請求書発行だけでなく発注業務の段階から改善をした。現在全体の中で2,3割が電子化できており、今後は5割まで上げていきたい。電子化で受発注をすることができない会社からは「他の取引先も含めて紙なので、花王のためだけに(電子に)変えられない」と聞いている。その背景には、コストがかかる・ITに詳しい人材がいないといった問題があるのだろう。
秦氏
弊社はコロナの影響で一気に電子化をした。経営として、現場として「やりきるのだ」という覚悟を持ってやっていけば電子化は可能。
小倉氏
クラウドに請求書や領収書を保存しているだけでは電帳法の要件は満たされないー要件を満たしたクラウドに保存することで初めて法律の要件を満たしたことになる。今まではキャッシュレス決済や電子取引をしても紙ベースで証憑類が保存されていた。これが電子でやりとりされることでリモートワークの推進につながっていくと考えている。また、電子的に作成された帳簿を電子帳票と紐づけることで密接な税務資料を作ることもできる。
③経理業務に関する今後の展望
秦氏
マニュアル作業や今行っているルーチン作業がなくなると考えている。それに代わって、経理は新たな仕事に移行していくだろう。会計データから非会計データにドリルダウンして今後何が起こるのかを経営に提言できるようになり、そして会社のあらゆるデータが電子化されて会計に上がっていく。経営のビジネスパートナー的役割に経理が移行していくだろう。
上野氏
労働力人口減少の国難に立ち向かうためには、経理はより生産性の高い仕事にシフトしていく必要があると思う。
最後に
「日本の経理をもっと自由に」プロジェクトは発足以降進化を遂げ、現在では協賛企業は100社を越えました。一経理として働く筆者としては、今後経理が紙作業のためだけに出社しなければならない機会がこのプロジェクトの推進によって減ってくれるといいなと願っています。