「広告」という言葉から、多くの人はテレビで流れるCMや街なかに貼られているポスターを思い浮かべることでしょう。近年ではパソコンや携帯電話の利用者数の増加に伴い、いつでも簡単にインターネットにアクセスできるようになりました。広告の世界にもWebサイト、特に検索エンジンやECサイトでの検索結果を活用したマーケティングが用いられるようになりました。実はここにも、AI(人工知能)が活用されています。
今回は、広告の世界でのAI(人工知能)活用について、解説いたします。
届けたいターゲットだけに広告を表示させる
Webサイトを閲覧しているとき、画面下部や右側に様々なWeb広告が表示されているのを見たことがあるでしょう。それは、これまでにWebサイトを閲覧したり検索したりした履歴をもとに、興味や関心があると判断されたWeb広告が配信されているからです。そのため、同じWebサイトを閲覧していても、人によって表示されるWeb広告が異なります。
SNSとWeb広告
SNS(ソーシャルネットワーキングサービス)の収益の大半が、広告から得られているのをご存知でしょうか?
年齢や性別、居住地といったプロフィールをはじめ、興味のある記事、交友関係、アップされた画像やテキストデータ、企業やショップのフォロー傾向に至るまで、全ての利用データはSNSに常に筒抜け状態にあります。SNSの全ての利用データはビッグデータとして利用されています。SNS内の広告は単にユーザーに合わせて広告を表示しているだけでなく、広告内容やターゲットなどを細かく調整して効果測定を行えるため、非常に高い広告効果が得られるのです。
いずれ広告制作もAI(人工知能)で…?
広告は制作を人間が行っていますが、さらに一歩進んで、制作をAI(人工知能)に任せようという試みが進められています。
自動コピー生成システム「AICO(アイコ)」
広告の大手企業である株式会社電通は2017年5月に、静岡大学の狩野芳伸准教授の研究室と共同で、AI(人工知能)を活用して広告コピーをつくり出すシステム「AICO(アイコ)」(β版)を開発しました。
例えば「AI」「人工知能」という単語を打ち込むと、「ロボット」「ディープラーニング」などの関連ワードを使ったキャッチコピーを自動的に作成してくれます。実際のキャッチコピー集を学習させた「AICO(アイコ)」は、主語や述語などの品詞の種類、文法、言葉の意味などに基づいて文章を組み上げていきます。電通のコピーライターが研究に加わることで、より人間の発想に近いキャッチコピー作成を実現しました。
AI(人工知能)が短期間で生成した大量のコピー案の中から、電通のコピーライターが選別したものを決定稿としています。将来的にはWebサイト閲覧者の好みや傾向を反映したインターネット広告、天気や時間帯に対応して変わる屋外広告などへの活用が検討されています。
サイバーエージェント社の専門組織「AIクリエイティブセンター」
株式会社サイバーエージェントは2017年、専門組織「AI(人工知能)クリエイティブセンター」を設立。広告の自動生成と効果分析、その結果を生成にフィードバックするまでの流れを自動化するため、様々な研究を行っています。具体的には、広告効果があると判断された広告文のタイトルと説明文をAI(人工知能)に学習させ、広告のテキスト生成を自動で行うまでのフローです。
ネット広告の効果を向上させるAI(人工知能)
CMや雑誌、新聞、屋外、インターネット問わず全ての広告の最終的な目的は、製品やサービスを利用したり購入したりしてもらうことです。それとは別に、インターネット広告の場合、特定のターゲットに向けて宣伝するというもう一つの目的を有しています。利用者の増加に伴い、インターネット広告を活用する企業は今後も増え続けるでしょう。
インターネット広告の効果を向上させるために、分析ツールを使ってユーザーのアクセスデータを解析し、コンテンツの選択や表示タイミングなど様々な調整を図りながら、効果的な広告方法を探る手法が多くの企業で採用されています。そこにAI(人工知能)を活用することで、より広告の効果を上げようという動きがあり、実際に導入しはじめた企業も増えてきました。データ分析や効果測定は、AI(人工知能)の得意分野といってもよいでしょう。
現実世界にも拡がる広告のAI(人工知能)活用
日本では実店舗とECサイト、SNS、カタログなど、企業とユーザーの接点を連携させる「オムニチャネル」化が進んでいます。これはスマートフォンの利用者の増加に伴い、ユーザーがいつ、どこで、何を購入したのか、現実世界での行動履歴まで併せて把握できれば、ユーザーに適した広告表示がさらに進むでしょう。現在はWebサイトにのみ自分向けの広告が表示されていますが、今後は現実世界でも、雑誌やCM、屋外などで自分に向けた広告を見かける時代が到来するかもしれません。