人間の知能には、感情や美意識を感じ取れるアンテナのようなものが備わっています。それでキャッチしたものを、様々な形に落とし込むことができます。一方でAI(人工知能)は、主に人間の生産性の向上を目的として開発されているため、クリエイティブな創作物を生み出せるのは難しいと考えられてきました。
しかしここ数年、人間の創作物と見分けがつかないような作品を生み出せるAI(人工知能)の研究がさかんに行われはじめました。今回はそのなかから、絵画・作曲・文学といったジャンルへの取り組みを通して、実際にどのような研究が行われてきたのか、見ていきましょう。
AI(人工知能)が創作する…?
絵画
2016年夏。「夜警」で知られるオランダの画家レンブラントの「新作」が発表されたと話題になりました。実はこれ、Microsoftやデルフト工科大学、マウリッツハイス美術館、レンブラントハイス美術館による共同チームに、オランダの金融機関INGグループが出資者として参画したプロジェクト「The Next Rembrandt」によるものです。
レンブラントが生涯で創作した346の作品全てを3Dプリンターでスキャンしたのちに高解像度データ化し、ピクセルごとに特徴を分析しました。これをふまえて、AI(人工知能)の一種であるディープラーニング(深層学習)に以下の内容を学習させました。
- 作品の内容
- 色使い、陰影の付け方
- レイアウトの特徴など
筆づかい、油絵具の隆起といった細かい部分まで忠実に学習させることで、「レンブラントの作風」の再現を成功させたのです。
音楽
「Jukedeck」(ジュークデック)は2015年12月に公開された、オリジナルの楽曲を作成できるオンラインサービスです。楽曲の長さやジャンル、雰囲気などを指定するだけで、機械学習で楽曲を学んだコンピュータ(人工知能)が著作権フリーの楽曲を生成して提供します。ちなみに2019年、Tik Tokを運営する会社に買収されたため、2019年10月現在、Webサイト上では準備中となっています。
「Jukedeck」とよく似たものに「deepjazz」(ディープジャズ)もあります。こちらは2つのディープラーニングを使って、ジャズ調の曲をオンライン上で作る、AI(人工知能)です。また、ソニーコンピュータサイエンス研究所(SonyCSL)では、AI(人工知能)が作ったビートルズ風の楽曲「Daddy’s Car」を発表しました。「Flow Machines」というプロジェクトによるもので、こちらも完成した曲を、インターネット上で聴けます。
文学
ロボットが創作するジャンルには「文学」があります。文字データであり、絵や音楽とは違った能力が必要になります。AI(人工知能)で小説を生成する試みとして、日本では「きまぐれ人工知能プロジェクト作家ですのよ」プロジェクトがあります。これは、ショートショートで有名な作家の名を冠した文学賞「星新ー賞」に応募するために、公立はこだて未来大学の松原仁教授を中心としたチームがAI(人工知能)にショートショートの作品を学習させたうえで小説を書かせました。すると、第3回(2016年)で一次審査を突破しました。
映画脚本の分野でも、AI(人工知能)の進出が確認されています。AI(人工知能)が執筆した映画脚本をもとに、短編映画「Sunspring」が制作されました。こちらは現在、YouTubeで公開されています。ところどころ会話が噛み合っていなかったり、「極めて意味のない文字列」がセリフになっていたり、突拍子もないストーリー展開だったりするのが特徴です。人間がきちんと理解できる脚本を書けるまでには、かなりの時間を要しそうです。
AI(人工知能)には、オリジナルの芸術作品を生み出せるのか?
AI(人工知能)が作った作品は芸術作品かどうか、そもそも芸術と呼ぶにふさわしいのかを判断することは難しいものです。もっと言えば、AI(人工知能)が手掛けた作品を「オリジナル」とすることは可能でしょうか?
人間から作品の情報(=学習データ)が提供されなければ、AI(人工知能)は作品を創り出す能力を身につけることはできません。ただし、あくまで学習データを得て生み出されるのは「それっぽい作風」の作品であり、厳密に言えばオリジナル作品とは呼べないでしょう。
一方で、人間が創り出す様々な作品も、過去の作品の影響なしに生まれないのもまた事実です。絵画や音楽、文学にしても、アーティストと呼ばれる人たちの大半は先人たちの創り出した多様なジャンルの作品に触れ、影響を受けながら自らの作品を生み出しています。AI(人工知能)がこの先、人間同様に学習したスタイルに別の要素を付け足すことができれば、オリジナルの作風を生み出すことができるかもしれません。