今から3年前、有名な日本人俳優と会話する四角形のAI(人工知能)の姿が、テレビCMで流れました。名前は「IBM Watson(ワトソン)」。AI(人工知能)を語るうえで避けて通れない、IBMが開発・公開している代表的なサービスの1つです。Watson(ワトソン)は先述のCMで、日本語だけでなく細かなニュアンスを理解し、対談相手とごく自然な会話を交わしています。
上記以外にも様々な能力を秘めているWatson(ワトソン)を、様々な企業が活用するなど、ここ数年でWatson(ワトソン)はビジネスへと活躍の場を広げています。
ではWatson(ワトソン)とは一体どんなものなのか、特徴や活用事例も紹介しながら紐解いていきたいと思います。
Watson(ワトソン)とは
Watson(ワトソン)は様々な質問に対して、人間が会話に使っている言葉のニュアンスを解釈できるだけでなく、蓄積された膨大な量のデータから最適な答えを探し出し、回答してくれるAI(人工知能)です。質問応答技術と自然言語処理技術の向上と進化を目的に設計されました。
開発元であるIBMによると、Watsonを「コグニティブ・システム」と定義したうえで、「拡張知能(Augmented Intelligence)」と呼んでいます。あくまでも「人工知能」ではないというスタンスのようです。「コグニティブ」(Cognitive)とは「認識できる」「経験的知識に基づいた」という意味です。
Watsonの進化と軌跡
Watson(ワトソン)が一躍有名になったのは2011年。アメリカ全土で放送されるクイズ番組「Jeopardy(ジョパディ)!」に出演したWatson(ワトソン)は、百科事典など約100万冊にも及ぶ書籍から得た知識をもとに、出題されたクイズ問題の意味を理解して答えていったのです。結果Watson(ワトソン)は、人間のクイズ王を破って優勝しました。
2015年2月には、日本IBMとソフトバンクが提携し、日本語版の開発に着手。2016年にソフトバンクは、Watson(ワトソン)の日本語版を提供開始した他、法人を対象に、Watson(ワトソン)導入をサポートしています。
Watson(ワトソン)の進化と軌跡
2009年 | クイズ番組に挑戦するため開発スタート |
2011年 | クイズ番組「Jeopardy(ジョパディ)!」で優勝 |
2013年 | 米IBM社発表により、一般デベロッパーに提供開始 |
2015年 | Watson(ワトソン)が作ったレシピ集が発表される |
2016年 | 膨大な数の医学論文を学習して白血病患者の病名を診断する |
Watson(ワトソン)にできること
Watson(ワトソン)では、どんなことができるのでしょうか。
Watson(ワトソン)は、自然言語処理をベースにして作られているため、ユーザーからの質問に応答したり会話したりすることを、最も得意としています。その他、システムに蓄積された様々な知識を利用して、人間の意思決定をサポートすること、音声のテキスト変換、画像分析なども可能です。
Watson(ワトソン)の活用事例
Watson(ワトソン)はどんな機械にも搭載可能なため、様々な場所で活用できる柔軟性を持っています。
活用事例~金融分野編~
三井住友銀行やみずほ銀行、保険会社のMS&ADインシュアランスグループなどのコールセンターで、電話応対をサポートする業務を行っています。利用者から受けた質問に対して、マニュアルやホームページの該当箇所、よくある質問などから回答候補となる情報をWatson(ワトソン)が瞬時にオペレーターに提示することで、膨大で複雑なマニュアルの中から回答を導き出す時間を減らすことに貢献しています。
活用事例~医療編~
Watson(ワトソン)の技術を商用化するべく、IBMが最初に進出したのが医療分野でした。2011年9月にアメリカの医療保険会社WellPoint社との提携を、2012年3月にはがん治療のための情報支援をそれぞれ発表。医療機関や製薬会社などと提携して、資料や論文をコンピュータ用の構造化データに変換して、患者ごとに最適な治療方針や薬を医師に提案するシステムを開発しました。既に2015年頃からアメリカとカナダの14医療機関で導入されています。2016年にはがんの診断で活用されたことが話題となりました。
日本でも、東京大学医科学研究所とIBMによって2015年に発表された臨床研究の成果により、Watson(ワトソン)による医療分野への活用が一躍脚光を浴びました。
活用事例~法律業務編~
「ROSS(ロス)」は、アメリカのスタートアップ企業「Ross Intelligence(ロス・インテリジェンス)」がWatsonの技術をもとに開発した、“AI弁護士”です。2016年にアメリカの法律事務所「Baker & Hostetler」に導入されたことで話題となりました。ROSS(ロス)は過去の判例や法律などを学習しており、クライアントの相談内容から参考判例を探すサポートをしています。人間の弁護士はアシスタントと会話するようにROSS(ロス)とチャットすることで、クライアントの状況に合わせた関連性の高い判例を根拠とともに確認する他、クライアントの弁護に専念できます。