2018年7月6日に、国会で「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」(通称:働き方改革法、働き方改革関連法案)が可決され、2019年4月から施行されました。この法案の成立によって、何がどう変わるのでしょうか。法律の制定に至った背景と概要を詳しく見ていきます。
なぜ今、働き方改革と法制定が必要だったのか
働き方改革は、2016年9月に安倍晋三首相が「働き方改革実現推進室」を設置したことに端を発します。その背景には、様々な問題が内在している日本の雇用にあります。1つは、過労死や過労自殺にもつながる長時間労働問題。もう1つは、正規雇用と非正規雇用間で賃金などの格差が就労の実態の差よりも大きくなり過ぎている問題です。後者は、単に所得だけではなく、結婚や教育などの面でも格差が生じており、日本の社会や経済の不安定さの一因ともなっています。
法律を制定することで、働き方への問題解決を企業に求めるだけでなく、介護や育児、性差や障がいなど、抱える事情に応じて労働者に多様な働き方を選択してもらうこと、安心して仕事に取り組み、意欲や能力を存分に発揮できる環境の実現を目指しています。
働き方改革法の概要
働き方改革法は、主に次の3つの目的を柱として制定されました。
- 働き方改革の総合的で継続的な推進
- 長時間労働の是正と多様で柔軟な働き方の実現
- すべての雇用形態で労働者の公正な待遇を確保する
このうち、「働き方改革の総合的で継続的な推進」に関しては、法案の公布日である2018年7月6日から施行されており、働き方改革の全体像が雇用対策法の目的の中に示されています。
特に、「長時間労働の是正と多様な働き方の実現」、「労働者の公正な待遇の確保に向けた労働環境の整備」に関しては、会社側に一定の改善義務を課していることも特徴です。
また働き方改革法の制定により、30以上の法律が改正されています。以下にその一部をご紹介します。
- 労働基準法
- 労働安全衛生法
- 労働者派遣法(労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律)
- 労働契約法
- パート労働法(短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律)
- 雇用対策法
- 労働時間等の設定の改善に関する特別措置法
- じん肺法
2019年 | 2020年 | 2021年 | 2023年 |
・時間外労働の上限規制(中小企業除く、罰則付き) ・フレックスタイムの清算期間の延長(3カ月に) ・労働時間の状況の把握の義務化(管理監督者を含む) ・産業医・産業保健機能の強化 ・勤務間インターバルの導入推進(努力義務) ・年5日の有給休暇の取得義務化(事業主が時季指定) ・高度プロフェッショナル制度の創設(年収1,075万円以上の労慟者が対象) |
・時間外労働の上限規制(中小企業含む) ・同一労働同一賃金(中小企業除く) |
・同一労働同一賃金(中小企業含む) | ・月60時間超の時間外労働の割増賃金率50%以上(中小企業の適用猶予措置の廃止) |
それでは、働き方改革関連法案の具体的な改正内容を解説していきます。
働き方改革関連法案の具体的な改正内容
労働時間に関する制度の見直し
法定労働時間を超える時間外労働に対して、原則として1か月45時間、1年360時間という明確な上限が設けられました。
また、高度な専門的な業務を担う高年収(1,000万円以上)の労働者について、所定の要件を満たす場合に、労働時間や休日、深夜労働の割増賃金に関する規定の適用を免除し、多様な働き方を認める「特定高度専門業務・成果型労働制(高度プロフェッショナル制度)」が新設されました。
勤務間インターバル制度の促進化
翌日の始業開始時刻までの十分な休息時間を確保する、勤務間インターバル制度について、労働時間等設定改善法において、事業主(事業者)はインターバルの確保に努める義務を負うことが明記されました。
社員の健康管理に産業医・産業保健機能などを強化
50名以上の労働者がいる事業所において、労働者の健康を確保するため必要があると認めるとき、産業医は企業に対して労働者の健康管理などの必要な勧告を行います(安衛法13条5項)。そのうえで企業は、産業医の勧告内容などを衛生委員会または安全衛生委員会に報告しなければならないものとされました(安衛法13条6項)。
公正な待遇の確保に関する改正
正規雇用・非正規雇用問わず、パートタイム・有期雇用労働法、労働契約法、労働者派遣法などに不合理な待遇を禁止する規定が整備されました。これらの改正は、原則として2020年4月1日から施行されます。正規雇用労働者との不合理な待遇を禁止すること、それぞれの労働者の待遇を決定する際に、職務内容の性質・内容を考慮することが明確化されました。
多様な働き方による変革を目指して
戦後の高度経済成長期においては、長く働くことは偉いという価値観がありました。しかしその後、1980年代後半から長時間労働による死亡事故や過労自殺が多発するなど、社会問題化しました。時代が進むにつれ、司法の場でも過労死や過労自殺における企業の責任を認めるようになったり、国も積極的に法整備したりしていますが、長く働くことは偉いという価値観は今日まで根強く残っています。
「働き方改革」を推進していくためには、これまでの企業文化と風土、企業で働く労働者自身の意識を根本から変え、新しい価値観や認識を取り入れることで初めて実現するといえるでしょう。