1973年に自己資金2000万円で創業した日本電産。今や世界一のモーターメーカーに育ち、グループの売上高は1兆円を超える巨大企業です。創業者は猛烈なハードワーカーとして有名な永守重信会長。しかし、今、注目されているのはそのがむしゃらな働き方ではなく「2020年度までに残業ゼロを実現する」という働き方改革です。この改革を打ち出したのは、2020年度に売上高2兆円、2030年度に10兆円という大きな目標を達成するのに、働き方から見直す必要があると考えているからです。カリスマ経営者がひきいる働き方改革、ここではその一部をご紹介していきます。
成果の乏しいムダな仕事をいかに減らすか
効率経営を徹底している日本電産でも会議の効率化は常に課題となってきたという。グループ会社の日本電産トーソクで、社内調査で明らかになったのは、年間延べ6400時間が会議に費やされ、総コストは1時間あたり人件費を5000円とすると約3200万円にもなるという事実。そこでまず行なったのは目的が似た会議や生産性の低い会議を洗い出し、効率が低い会議のリストアップしたことだ。その上で、会議の議題を事前にはっきりさせるようにしたという。さらに参加するのはほんとうに必要な人だけとし、参加者は必ず事前に配られた資料を読んでから出席する、などの徹底した効率重視の7つのルールを掲げた。こういった会議の効率化などのプロセスを見直すことで、働き方を改革し、かつて実質1桁大前半だったトーソクの営業利益率をわずか1年余りで2桁に急伸させた。
会議における7つのルール
- 会議時間は45分を基本に。短時間会議は25分。
- 会議参加者には事前に会議の目的・時間配分・必要な成果を示す
- 会議出席者は必須の者のみに厳選
- 会議の主催者は冒頭に目的、時間配分、必要な成果を再確認。
- 資料は1議題1枚。事前に配賦
- 会議終了時には結論、宿題を確認。決定事項の担当も明確に。
- 議事録は会議中作成。遅くても翌日まで。
部下の残業を減らすにはマネジメントが決め手
日本電産の働き方改革はマネジメント力を重視することにも特徴がある。部下の能力や適性、仕事の状況などを詳しく把握し、率いていくことが無理なく最大の成果を生む近道と考えるからだ。「上司が忙しくて相談できない。」「自分たちの仕事を理解していない。」といった声から浮き上がってきた上司と部下とのコミュニケーション不足という課題を解決するため、日本電産はここでも独自の研修を実施した。
まずは仕事のやる気を縦軸・仕事のスキルを横軸にして「スキル・高、やる気・高」から「スキル・低、やる気・低」までの4つの象限を作り、部下の状況を評価したうえで、そこに位置づけるところから始めたのだ。ただし、部下個人の総体的なやる気や能力ではなく、現在受け持つ部下の仕事に対して評価をしていくのがポイントだ。必要なスキルはほとんどないがやる気はあるといった最初の状態から、人によって時間がたってもスキルが身につかずやる気も失って、両方が低くなる者もいれば、スキルが高まることでやる気を維持する者もいる。こういったスキルとやる気のポジションを念頭に、上司は部下への教育や指示の仕方を変えていくのだ。スキルややる気のある部下には仕事を任せ、スキルはなくてもやる気がある部下には教育、やる気もスキルもない部下には話を聞き支援しながら指導する、といった具合だ。こうすることで管理職は限られた時間で、誰をケアする必要があるのか判断でき、上司と部下の双方にとって業務量が減ることになる。
ある仕事に対する部下の状態
スキル・高、やる気・高 →(上司の対応)まかせて報告だけ受ける
スキル・高、やる気・低 →(上司の対応)支援する
スキル・低、やる気・高 →(上司の対応)教育する
スキル・低、やる気・低 →(上司の対応)話を聞き支援しながら指導する
英語教育やIoTの活用も働き方改革のひとつ
日本電産が生産性と働き方を変える鍵としているのがさらにもう一つ。それは英語能力。グローバル企業にとって必須の英語力だが、電話ひとつとっても語学力が不足していれば2倍の時間がかかってしまう。商談で通訳が必要になれば費用もかかる。つまり英語を話せないことはそのまま仕事の大きな支障となるのだ。英語ができる人しか営業に行けなかった会社に、行ける人が増えるだけでも生産性は上がり、働き方はかわるという。そのためにも、スピーキングや基礎力など複数の種類の研修を用意し、教育に力を入れている。
上記のような取り組みの他、日本電産ではIoTを活用し、生産設備に通信機能を持たせリアルタイムに稼働状況を把握している。異常を即座に把握し、対応できるようにすることで、ムダな作業の削減につなげる計画だ。
競争力向上に結びつく取り組みを
2016年の日本の総労働時間は1713時間。ドイツの1363時間、英国の1676時間など先進国との比較ではまだ長い。本サイトでも紹介している請求書処理sweeepのAI技術や、RPAなどのテクノロジーの進化によって、必ずしも労働時間の長さが経済成長を保証する時代ではなくなっている。グローバル競争を勝ち抜くには、構造改革と業績を徹底的にリンクさせることで、働き方改革をより深く継続させることが重要だ。