起業プロセスを早める「起業家用戦略コンパス」とは|スタートアップ

素晴らしい技術やアイデア得て、それがビジネスコンクールで評価され、投資機関からも注目された時、さてその技術を市場に届けるにはどのような道を選べばいいのだろうか。手っ取り早い現実的な戦略に飛びついて、せっかくのアイデアを無駄にしてしまうケースは思いの外多いそうだ。起業プロセスをそれほど遅らせることなく、戦略の選択肢を検討するためのツールがあったら、そんな失敗も起こらないだろう。

今回は、市場の開拓戦略に役立つ4つの道を示した、トロント大学教授ジョシュア・ガンズ氏、マサチューセッツ工科大学講師のエリン・スコット氏、同大教授スコット・スターン氏らの研究による四つの「起業家用戦略コンパス」をご紹介する。

二つの競争上のトレードオフとは

市場の開拓戦略において前提となるのは「どの顧客を狙うか」「どの技術を使うか」「どのような組織アイデンティティを掲げるか」「どの競合に立ち向かうか」の四つを決める必要がある。しかし、予算も経験も乏しいスタートアップ企業にとって、この四つの戦略カテゴリーのいずれに自社が当てはまるのかさえ、決めるのは難しい。まずは二つの「競争上のトレードオフ」から検討が必要になる。

  • 既存企業と協力するか、競合するか

協力するという選択をすると、既存の大手企業と手を結ぶことで規模が大きくて整備された市場に短期間で参入することができる。さらに豊富な経営資源を入手できる場合もあるため、魅力的に映るが、官僚体質の大企業とのやり取りで時間のロスを被ることがあったり、分け前が少なくなるというリスクもある。一方、競合するとした場合には、既存企業が見落としていた顧客層を相手にしたり、成功していた既存製品を代替したりといったことが自由にできるが、資金量で勝る既存企業と対決しなければいけないというマイナス面もある。

  • イノベーションを囲い込んで守るか、打って出るか

自社製品や自社技術を厳しくコントロールすると、他社が真正面から競合できなくなり、強い立場にたつことができる。ただし、取引コストが増加するため、イノベーションの市場投入、顧客やパートナーとの協力もハードルが高くなる。他方、市場に自社製品・技術を投入する道を最優先すれば、開発や事業化はスピードアップするが、顧客及びパートナーとの綿密な協力関係がベースとしてないと他社との競争をあらかじめ予期して対処することができない。

以上、二つの「競争上のトレードオフ」を突き詰めて考えれば、戦略の検討作業は大幅に単純化できる。そのうえで、以下の四つの戦略から選択肢を導きだし、価値創造と価値獲得の可能性を比較検討していこう。

四つの戦略的コンパス

既存企業に協力的か・競争的か、イノベーションを囲い込むか、打って出るか、この二つの軸によって四つの異なる戦略が生まれる。それぞれが顧客・技術・組織アイデンティティ・競争空間に関する選択の指針となる。

  • IP(知的財産)戦略(技術の囲い込み・他社と協力)

既存企業と協力しながら自社の製品・技術をコントロールする戦略。パートナーとなる既存顧客からみて、スタートアップの中核的アイデアが高い価値と持つものでなければならず、また、既存のシステムと相性のよい技術である必要があるだろう。うまくいけば特定の既存企業を介して顧客に届けられるイノベーションを生み出し、発展させることができる。

  • ディスラプション戦略(技術を打って出る・他社と競争)

IP戦略とは対極となる戦略。既存企業と真っ向から競争し、自社のアイデアがどのように発展していくかコントロールすることにはこだわらず、事業化を急いで市場シェアを急拡大することを重視する。容易に真似しやすいアイデアであることが多いため、最も重要なのは追いつかれないほど先行すること。そのため、当初狙うべき顧客層はニッチ層で、既存企業からサービスを受けていない層が狙い目だ。

  • バリューチェーン戦略(技術を打って出る・他社と協力)

先の戦略に対して、いくぶん退屈に思えるバリューチェーン戦略。これは既存のバリューチェーンをひっくり返すのではなく、順応していくものだ。激しい競争はせず、他社の顧客と他社の技術を原動力とし、優れたパートナー企業になることに努める。ほとんどのスタートアップがこの戦略を選べると言われており、刺激的ではないが非常に収益性の高いビジネスを作り出す可能性がある。ただ、その分自社の創造する価値が、そのバリューチェーンに関わる他社には模倣できない場合のみ、成功できるのである。

  • アーキテクチャー戦略(技術の囲い込み・他社と競争)

最もリスクが大きい戦略と言われているが、この戦略で成功すれば大きな注目を集める事が多い。良い典型例はフェイスブックやグーグルである。全く新しいバリューチェーンを設計し、そのカギを握るボトルネックをコントロールする。必ずしも根底を覆すイノベーションを生み出す必要はないが、顧客と技術と組織アイデンティティを巧みに組み合わせて、そのイノベーションを一般大衆を使ってもらう必要がある。その分、最大のリスクは失敗したら二度目はないという事実である。

戦略を決定する前にすべきこと

以上、四つの戦略を紹介したが、すぐに結論を出すことは出来ない。まず行うべきは、この四つの全てのコンパスの事象に対し、実現可能性や予想される障害の検討、さらに狙うべき顧客層、注力すべき技術、誰といかに競争・協力するか多くの選択肢で埋めることが必要だ。もちろん簡単な仕事ではないがこれをすることで、次に取るべき戦略がわかりやすくなるのである。既存の競争環境を目に映る姿のまま受け入れてしまうのではなく、ほかにどのような新しい競争環境にできるのか具体的に示して選び取るための枠組みがわかるからだ。戦略の選択で成否の大半が決まるスタートアップ、このフレームワークはその選択の手助けとなるだろう。

参考文献:株式会社ダイヤモンド社 ハーバード・ビジネス・レビュー2019年3月号
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