今回は減価償却の基本についてみていきます。
「減価償却」は日常生活ではあまり馴染みのない会計処理です。お金の入出金や物の購入のように、家計簿でも利用するような考え方ではありません。
そのため、フリーランスや個人事業主になったばかりの方や、経理担当者に初めてなった方の中には「減価償却という言葉を初めて聞いた」という方も多いはず。
そんな初心者の方に向けて、今回は減価償却を行う上で必要になってくる基礎用語を解説します。
減価償却とは
減価償却とは、費用収益対応の原則にもとづき、資産取得のために支払った費用をその資産を利用した期間に応じて、各期に配分して費用計上していく方法のことです。
例えば、営業車を400万円で購入した場合、その400万円を資産を購入した年度の費用として一括で計上するのではなく、その資産の耐用年数に合わせて徐々に費用化をしていくイメージです。営業車の耐用年数がもし4年であるならば、毎年100万円ずつ4年間かけて費用計上していくことになります。
減価償却がどうして数年かけて費用化を行っているのか、その理由を理解するためには「費用収益対応の原則」とは何かを知る必要があります。
費用収益対応の原則とは
一般的に、事業の用に供された資産は収益を獲得するために使用されていると考えられます。
上記の営業車であれば、4年間収益獲得に貢献したと言えます。収益獲得に貢献した年数に合わせて費用計上が行われることで、決算書上より適切に事業活動が表示されると考えられているのです。
もし本来4年間収益が獲得できる資産を1年で費用化してしまったとしたら、1年分の収益しか得ていないにも関わらず、決算書上には4年分の費用が計上されることになりますよね。
そうなってくると、収益(1年分)と費用(4年分)の期間が対応しなくなってしまいます。残りの3年間については何の元手(=費用)もないのに収益が上がってくるイメージになってしまいますよね。
そのため、資産は減価償却を行うことにより、その資産の耐用年数に渡って徐々に費用化されていきます。このように「収益と費用を企業活動上の因果関係に即して把握することでより適切な期間損益が計算できる」とする考え方のことを「費用収益対応の原則」と言います。
減価償却に関する基本用語
ここから先では、減価償却に関連する基本的な用語をいくつか見ていきましょう。
①償却方法
②減価償却資産
③取得価額
④耐用年数
⑤残存価額(残存簿価)
⑥帳簿価額(未償却残高)
⑦償却資産税
上記は減価償却費の計算に際して使用される用語です。減価償却費とは、減価償却を行うことで算出される費用のこと。上記営業車の例で言うと100万円が該当します。
減価償却費は計算式によって算出されます。そのため、①、③、④、⑤は税法上それぞれの内容が法定されています。法律で定めることによって、各社・各個人ごとに算出結果が変わることを防いでいるのです。課税を公平に行うための対策です。
①償却方法
償却方法とは、減価償却費の計算方法のことです。主に定額法・定率法・級数法・生産高比例法の4つがあります。
このうち級数法は税法上法定の償却方法とは認められていません。そのため、実務で使用している会社はほとんどないと考えられます。
また、生産高比例法は主に鉄鋼業や石油鉱業で使われている償却方法です。このような業界にお勤めの方以外、利用する機会はないでしょう。
そのため、一般的な会社の経理担当者や個人事業主の方が主に利用する償却方法は定額法か定率法のどちらかになります。
各償却方法の説明についてはこちらの記事をご参照ください。
今回は減価償却費の計算方法をご紹介します。 減価償却費の計算方法はいくつかありますが、その中でも一般的に利用されているのは定額法・定率法の2つになります。 この記事では定額法・定率法の計算方法について、実際の例をもとにみていきま[…]
②減価償却資産
事業などの業務のために用いられる建物、建物附属設備、機械装置、器具備品、車両運搬具などの資産は、一般的には時の経過等によってその価値が減っていきます。このような資産を減価償却資産といいます。他方、土地や骨とう品などのように時の経過により価値が減少しない資産は、減価償却資産ではありません。
引用:国税庁|No.2100 減価償却のあらまし
減価償却資産とは減価償却の対象となる資産のこと。上記のような有形固定資産から、ソフトウェアや特許権といった無形固定資産、そして牛や樹木といった生物まで対象となります。中古で購入した資産も対象です。
同じ資産でも、土地や骨とう品のように時の経過によってその価値が減少するものではない資産は減価償却の対象とはなりません。
③取得価額
取得価格とは、減価償却の対象となる資産を取得するために支払った費用のことを言います。
一般的には購入代価と付随費用(引取運賃、運送保険料、購入手数料、関税等)及び事業供用費用(据付費、試運転費等)の合計となります。
建物や構築物など自己建設の場合は、建設に要した原材料費や労務費、経費及び事業供用費用の合計が対象となります。
贈与や交換による取得の場合には、取得時の時価と事業供用費用の合計が対象です。
上述の付随費用や事業供用費は税法によって取得価額への算入が強制されています。一方、下記については取得価額への算入は任意となっています。
・資産の使用開始前の期間に係る借入金利子
・割賦購入資産につき、購入代価と割賦利息等が明確に区分されている場合の割賦利息等
・不動産取得税、自動車取得税、登録免許税等の租税公課等
・契約解除に伴う違約金等
参考:国税庁|第1款 固定資産の取得価額
④耐用年数(法定耐用年数)
耐用年数とは、取得した資産の使用可能期間のこと。課税を公平にする目的から、各資産ごとの耐用年数は税法によって定められています。そのため、法定耐用年数とも呼ばれています。
各資産の法定耐用年数は「減価償却資産の耐用年数等に関する省令」の別表第一から第六までに掲載されています。減価償却を行う際は、下記ホームページを参考にするようにしましょう。内容が改定される年もありますので、最新情報をチェックすることが必要です。
参考:e-GOV法令検索|減価償却資産の耐用年数等に関する省令
一方、中古資産を取得した場合は、新品の資産とは耐用年数が異なっています。詳細はこちらの記事を参考にしてください。
事業に必要なものを購入するとき、新品ではなく中古品を選ぶこともあります。中古車がその代表的な例です。 このような場合、その中古資産の耐用年数はどのように決めればいいのでしょうか?今回は中古資産の耐用年数の決め方を実際の計算例も含めてみ[…]
⑤残存価額(残存簿価)
残存価額とは、減価償却資産の法定耐用年数が経過した後に残っている資産価値のこと。平成19年度の税制改正までは取得価額の10%を残存価額として残していました。
しかし、平成19年度の税制改正により平成19年4月1日以降に取得した減価償却資産には残存価額を残す必要はなくなりました。坑道及び無形資産であれば全額を、それ以外の資産であれば残存簿価1円まで償却を行うことができるようになりました。
1円だけ簿価を残す意味はその資産が残っていることを帳簿上に示すためです。そのため、残存簿価、または備忘価額と呼ばれています。
参考:国税庁|No.2106 定額法と定率法による減価償却(平成19年4月1日以後に取得する場合)
⑥帳簿価額
帳簿価額とは、資産の取得価額から毎期の減価償却費を控除した残額のこと。未償却残高または簿価とも呼ばれ、実際にその時点で帳簿上に残っている金額のことを指します。
⑦償却資産税
償却資産税とは、減価償却を行っている資産に対して課せられる税金です。減価償却を行う資産を保有している法人・個人は年に1回申告書を税務署に提出する必要があります。
詳細はこちらの記事にてまとめられています。
「償却資産税」という税金をご存知でしょうか?だれもが関係のある税金というわけではないため「聞いたことがない」という方も多いと思います。果たして償却資産税とはどのような税金なのでしょうか? まず始めに「償却資産税」の基礎について簡単にみ[…]
まとめ
今回は減価償却にまつわる基本的な用語をみていきました。減価償却は、月日の経過に伴って価値が減ってくる資産に対して行われます。車や建物、ソフトウェアなどが対象となります。
減価償却を行う方法はいくつかありますが、一般的に利用されている方法は定額法と定率法の2つになります。この2つの算出方法を理解しておけば、一般的な会社で減価償却を行う分には問題なく対応できるでしょう。
定額法・定率法の詳細はこちらの記事にして解説しています。実際に減価償却費を算出してみたい方はぜひ参考にしてみてくださいね。
今回は減価償却費の計算方法をご紹介します。 減価償却費の計算方法はいくつかありますが、その中でも一般的に利用されているのは定額法・定率法の2つになります。 この記事では定額法・定率法の計算方法について、実際の例をもとにみていきま[…]