今回は「資本的支出」と「収益的支出」の違いについてご紹介します。
1.資本的支出と収益的支出の相違点
資本的支出と収益的支出は、それぞれ「固定資産の修理・改良等」にかかる支出という点で共通しますが、それらの支出が固定資産の①価値の増加または耐久性の増加と認められる支出であるか、または②通常の維持管理または原状回復と認められる支出であるか、によって資本的支出と収益的支出に区分されます。
固定資産の修理・改良等にかかる支出という点では共通
①価値の増加または耐久性の増加と認められる支出→資本的支出
②通常の維持管理または原状回復と認められる支出→収益的支出
そして、①資本的支出と判定された場合、当該支出は固定資産の取得原価に加算され、以後、減価償却費として耐用年数にわたって毎期の費用として計上されます。
一方、②収益的支出と判定された場合、当該支出は修繕費などの項目で一括してその期の費用とされます。
2.資本的支出と収益的支出の例
では、資本的支出の定義にある「価値の増加・耐久性の増加」とはどういう事でしょうか?
例えば、家屋の外壁を塗り替える工事を行った場合、「通常の維持管理や原状回復」と認められ、収益的支出と判定されます。
しかし、この外壁の補修工事に断熱性能のある樹脂の注入があわせて行われた場合、「価値の増加・耐久性の増加」となり、資本的支出と判定される可能性が出てきます。
上記の、外壁工事に樹脂の注入が行われるか否かで判断が変わる、という見解は平成元年の裁判事例に基づくものですが、実務においては判断が難しいケースが多々あります。
税務上、法人税基本通達において資本的支出と収益的支出について、下記の例示が列挙されています。
【固定資産の修理・改良等のうち、価値の増加または耐久性の増加と認められる支出の例示】
(1)建物の避難階段の取付け等物理的に付加した部分に係る費用の額
(2)用途変更のための模様替え等改造又は改装に直接要した費用の額
(3)機械の部分品を特に品質又は性能の高いものに取り替えた場合のその取替えに要した費用の額のうち、通常の取替えの場合に要すると認められる費用の額を超える部分の金額
【固定資産の修理・改良等のうち、通常の維持管理または原状回復と認められる支出の例示】
(1)建物の移えい又は解体移築の費用の額
(2)機械装置の移設に要した費用の額
(3)地盤沈下した土地を沈下前の状態に回復するために行う地盛りに要した費用の額
(4)地盤沈下による海水等の浸水害を防ぐ床上げ、地上げ又は移設に要した費用の額
(5)現に使用している土地の水はけを良くする等のために行う砂利、砕石等の敷設に要した費用の額
また、本来「価値の増加・耐久性の増加」を伴う資本的支出でも、下記の例外に該当すれば修繕費として処理できます。
・1件当たりの修理等に要した金額が60万円に満たない場合
・1件当たりの修理等のために要した金額が、前期に固定資産に計上した修理等の取得価額のおおむね10%相当額以下である場合
3.資本的支出と収益的支出の判断
例示でイメージを掴めたとしても、当然に全てのケースが網羅されている訳ではありません。そこで、実務上は下記のフローに従って判断する事が一般的です。
・1件当たりの修理、改良等のために要した費用の発生金額が20万円に満たない場合、または、
・その修理、改良等がおおむね3年以内の期間を周期として行われることが既往の実績その他の事情からみて明らかである場合
→修繕費
・1件当たり60万円に満たない場合、または、前期取得価額の10%相当額以下である場合→修繕費
上記の金額・期間を超える場合、その実質で判断し、
・使用可能期間(耐用年数)の延長、資産の価値の増加、新たな資産の取得(物理的な付加)がない場合は修繕費、いずれかに該当があれば資本的支出、と判断します。